それはつまり、裏切り者の一輝がアクセスを解雇されるという事。


「向こうが動き出す前に全てを明らかにして、アクセスを裏切ればどうなるか、全社員に知らしめてやるんだ。そうすれば、向こうになびいた社員達も目を覚ますはず。

それに、乗っ取りの計画が失敗すれば、向こうも斎藤次長を雇うなんてバカな事はしないだろうし、他の同業者も自分の会社を裏切る様な人間を雇うはずはない。彼は確実にこの業界から抹殺される。

それだけじゃない。アメリカは訴訟大国だ。訴えられるかもしれないね」


一輝が……訴えられる?


その言葉に寒気がして、全身に鳥肌が立つ。


「さっきの事、いつ常務に報告するんですか?」


出来るものなら、報告はまだしないと言って欲しかった。でも、奥田主任は高揚した顔で力強く言った。


「この後、すぐに報告するよ」

「そう……ですか」


一輝を助けてあげる事も、アクセスを裏切らないでと説得する事も、何も出来ない無力な自分が情けない。


複雑な気持ちで会社に戻り、気付けば一輝の方ばかり見てる自分が居た。その時、一輝の元に総務の娘がやって来て「支社長がお呼びです」と声を掛けたんだ。


支社長が一輝を呼んだって事は、まさか……もう?


目の前の奥田主任が一輝の姿を目で追い微かにほくそ笑んだのを見て、彼の言ってた"いよいよ"が来たんだと確信し、体が強張る。


そして、定時ギリギリに部長と共にオフィスに戻って来た一輝の顔は、口を真一文字に結びいつになく険しい表情をしていた。


その直後の終礼で、部長の口から発表された人事異動。それは、一輝の本社転勤。


突然の異動に周りの社員から驚きの声が上がり、ざわめくオフィス。そんな中、私は震える体を抱き締め俯く事しか出来なかった。