「えっ?何がですか?」

「新田係長に紹介された客だよ。宮川商事の山本常務……彼は要注意人物だ」


奥田主任の顔は真剣そのもの。冗談を言ってる様には見えなかった。


「どういう事ですか?」


再び周りを気にしながら隣の楓ちゃんの席に座った奥田主任が、口を手で覆い小声で話し出す。


「―――僕がアクセスに入社したばかりの頃、社内にある噂が流れていた。法人部門の女性社員が契約を取る為に、枕営業してるって……」


こんな仕事をしてると、そんな話しをよく耳にする。決して珍しい話しじゃない。実際、私がアクセスに入ってからでも、そういう噂を何度か聞いた事がある。けど、それはあくまでも噂で本当の所は分からない。


「もしかして……その女性社員って……」

「あぁ、新田係長だよ。そして、その相手が宮川商事の山本常務」

「うそ……」


奥田主任が言うには、新田係長は山本常務に宮川商事の取引先を紹介してもらう代わりに、何度も関係を持っていたと……


山本常務は取引先に新田係長の薦める保険に加入するよう圧力を掛け、その強引なやり方に怒った取引先からアクセスに苦情が殺到して、会社にふたりの関係がバレてしまったそうだ。


会社としては、法律に触れる様な事がない限り、社員がどんな営業をしてもそれを問わないというスタンスだったが、問題が大きくなり、焦った会社は事態を収拾させる為、新田係長を名古屋支社に異動させた。


「その後、僕も名古屋支社に異動になって、部門は違ってたが、彼女の良くない噂は絶えず聞こえてきたよ」