心の中でそう叫び部屋のドアを閉めようとすると、背後から一輝の声がした。
「お前、頑固なとこは、10年経っても全然変わってないな」
「そんな簡単に性格が変わるワケないでしょ」
一輝の顔を見る事なく、チェストの上に置いてあったファッション雑誌を持ちベットに座ると、雑誌をペラペラ捲る。
「ホタルの気持ちは分からないでもない。でもな、親父さんとママは本気で想い合ってるだ」
「それはどうかな?」
愛想なく呟く私に、一輝はため息混じりに言う。
「ったく……いいか?考えてみろ。ママが親父さんを本気で好きじゃなかったら、親父さんが倒れた時点で別れてたさ。
結婚しても介護生活が待ってるかもしれねぇしな。まだ財産でもありゃあ話しは違ってくるが、この家にそんなモンないだろ?」
「フン、財産がなくて悪かったわね」
「ひねくれるな。それに、これから親父さんのリハビリで通院しなきゃいけなくなる。まともに歩けない親父さんを、免許の無いホタルがどうやって連れてくんだ?ママは車の運転が出来るから任しておけばいい」
「タクシーで行くから平気だよ」と反論するが、今度は「仕事はどうするんだ?」と聞かれ言葉に詰まった。
「もう2週間以上休んでるんだぞ。これ以上は俺でも庇いきれない。クビになりたいのか?」
これには反論する事が出来ず、悔しくてキリキリと奥歯を噛む。でも、このまま言い負かされるのがしゃくで、一輝が一番嫌がる事を言ってやろうと思った。
「言っとくけど、私が引っ越さないのは父さんの事だけじゃないから」