「あ……それは……」


楓ちゃんはまだ、私と雅人さんが結婚するって思ってるんだ……


このまま話しを濁して誤魔化す事も出来たけど、いつかはバレる。このまま黙ってるワケにもいかない。仕方なく雅人さんと山根主任の事を話し、結婚は破談になったと説明した。


「うっそ~マジですか?」


私には既に結婚を決めた一輝という彼が居るから雅人さんはもう過去の人になってるけど、何も知らない楓ちゃんにしてみけば、この展開は、かなりの衝撃だったはず。


なんせ、彼女が入社した当時から、私は事あるごとに結婚したいって言い続けてきた。だから、とんでもない地雷を踏んでしまったと思ったんだろう。顔面蒼白でうろたえている。


「す、すみません……私ったら、余計な事を……」


楓ちゃんに一輝との関係を言えればいいいんだけど、口止めされてるから言うワケにはいかない。


「もう気にしてないから」と言っても、哀れむ様な目で見つめてくる。そして、私を元気付けようとしてるか「蛍子先輩、次ですよ!次!もっといい男ゲットしましょう」と力強く慰められた。


「ははは……だね」


なんか、複雑な心境だな。


彼女の中で私は、彼氏を上司に寝取られた惨めで超可哀想な女になってしまった様だ。その証拠に、この日以来、楓ちゃんは私の前で"結婚"というワードを口にしなくなった。


心配してくれてる楓ちゃんには悪いけど、幸せいっぱいのプライベートでは、一輝と同棲するマンションへ引っ越す為、荷物の整理に追われていた。