一輝が言った言葉の意味が全く分からなかった。


「ずっと前って……いつ?」

「お前は俺と初めて会ったのはカラオケ喫茶だって思ってただろ?でも俺は、その2年前からホタルを知っていた」

「……2年前?」



―――それは、私の知らない過去


苦学生だった一輝は、家賃の高いアパートを借りる事が出来ず、都心から離れた私の家のある街に住んでいた。


奨学金は学費に消え、アルバイトで生活費を稼いでいたそうだ。そんな一輝は、夕方のアルバイトの前に必ず立ち寄る場所があった。


それが、私の父親がやってる惣菜屋。店が閉まる数分前に行くと、結構値引きもしてくれる。自炊するより安上がりで美味しいというのが理由だった。


店の常連さんになった一輝は父親と親しくなり、身寄りのない一輝を心配した父親が売れ残った惣菜を彼に持たせる様になっていた。


そんな時、またまた店番をしてた高校生だった私を見掛けた。


「親父さんと楽しそうに笑って話してるホタルが凄く印象的だったよ。でも、お前が店番してる時は店には入れなくてな……」

「どうして?」

「どうしてか……そうだな、親父さんに売れ残りの惣菜貰ってる姿を、お前に見られるのが恥ずかしかったのかもしれないな。貧乏だったけど、一応、プライドってモンがあったから」


そして一輝は、私を避け店に通い続けた。そんなある日、父親に土日だけのアルバイトがあるとカラオケ喫茶を紹介され、一輝は働き始めたんだけど……


「カラオケ喫茶に来た親父さんに、突然娘と結婚しないかって言われた時は、マジで驚いたよ」