日が沈む一歩手前





「チコ…ちゃん?」




「三上さん…」





夕日は三上さんの涙の跡を照らしてた





「有給休暇、とったんじゃなかったの?」



「とったから今自由にしてるだけです」



「そう…」



三上さんが私に優しく笑った


「どうぞ」



「え?」



「イカ焼きです」



「なっ…」


「落ち込んだ時、いつもくれましたよね」


「……。」


「だから、今度は私が返しただけです」


「ふふっ…。そう。」


「三上さんごめんなさい。」


今度は私が涙を流してしまった

三上さんがあまりにも悲しげに笑うから


「チコちゃん…?」


「ひどいこと言ってごめんなさい

嘘ついてごめんなさい

私三上さんがすっごく大好きなんです」


「……チコ、ちゃん」


「課長と三上さんが結婚するって

勝手に勘違いしちゃって

三上さんが私があんな風に話してしまって

私のこと嫌いになったのかと思って…

だったら私も嫌いになってやろうって

思ったけど…無理でした…。」


「……。」


「何かあったらイカ焼きの味が欲しくて

何かあったら三上さんの顔が見たくて…」


「もういいわよ。

ちゃんと分かってるから。」


なんでこんなに優しいんだ

あんなにひどい事言って

泣かせてしまったのに


「う……ひっく…」


「よしよし。

チコちゃんは泣き虫ね。」


なんでそんなに優しいんですか


「三上さんだって…

泣き虫じゃ…ない、ですかぁ…」


「そうね…。

チコちゃんが泣くと、私も泣くみたい。」


「なんれすかあ…それ…」


「ふふっ…

私も…チコちゃんが大好きよ。

どれだけチコちゃんに

嫌われようと、ひどいこと言われようと」


この人は


なんて大きな人なんだ



「また…イカ焼きいっしょ…

う…食べえくれますかぁ…?」


私の小さな楽しみでした


「もちろんよ。チコちゃん。」




大の大人が

涙ぼろぼろこぼして食べたイカ焼きは

今までで一番おいしかったです