放課後、私は部室にいた。
帰ろうにも先輩がずっと一緒にいるものだから帰れなかったのだ。

「料理研究会に入っておいて今更ですけど、私料理とか出来ません」

「俺も出来ないから、一緒」

「じゃあ何で料理研究会に入ったんですか」

「元々俺も帰宅部希望だし」


こんなに人と会話したのはいつ以来だろう。


「美紗、好き」

「わかりましたから、それ以上言わないで下さい‥」

「やだ、好き」

「‥きらいです」

こんなやり取りを何回繰り返しただろう。
嫌いと言えば言うほど好きだと自覚していく。
好きって言えば、楽になるのかな。
言える訳がないんだけど。


「美紗」

「なんですか?」

「ちゅー」

「ばっ‥かじゃないですか!?」

付き合ってもないのにキスをねだるのは、どうかと思う。
最初は油断したけど、次は絶対無い。


「美紗はさ」

「‥はい?」

「嘘つきだよな」

笑いながら眼鏡を外す先輩に私の視線は釘付けになった。
嘘はついている、けど面と向かって言われると何故か悔しい。

「嘘なんて、ついてません」

「ほら、また嘘ついた」

カラカラ笑う先輩は、直視できなくなる程かっこいい。

「本当にきらい‥」

「嘘つきだね」

自信過剰、そんな風に言えたらどんなによかったか。
でも本当に私は嘘つきで。
自分の気持ちを正直に言う勇気なんて無くて。


「先輩のばーか、ばーか!」

悔しくて、机の上に置かれていた眼鏡をうばった。
こんなのお洒落眼鏡でしょ。

「おい、待て」

眼鏡をかけた私は足をもつれさせてそのまま後ろに倒れ込んだ。

「馬鹿‥俺はド近眼なんだよ‥」

先輩の言う通り私は眼鏡をかけた途端視界が揺れて急激な車酔い状態になった。