「なぁ、あの噂さ‥結局噂だよな。美紗ちゃんそういう事するタイプじゃ無さそうだし」

先輩から聞こえてきた言葉は私にとっては驚くべきものだった。
あの噂を、信じない人が今までいなかったからだ。

ハッとして先輩の顔を見た。
視線が至近距離で絡まる。
眼鏡に自分の顔が写るのが見えるくらい先輩は近くにいた。

自分の顔が熱くなっていく。


「男馴れしてないだろ」

「うる、さい‥です」

図星だった。
もちろん成績の為に色目は使うが先生たちを男性として見たことは一度も無かったからだ。

「美紗ちゃん、俺さ」

「やめて、喋らないで‥」

この人といたらペースを崩される。
危険だ。
帰ろうと思い立ち上がると、手を掴まれた。
手を振り払おうともがくと壁に押し付けられた。


「好き」


初対面の人に、この人は何を言っているのか。
顔に熱が集まる。
手首を拘束されているので逃げ出すことも出来ない。


「私、私は‥」


わかってるんだ。
私もあなたと視線を絡ませたあの瞬間から。


「‥きらい」


私も好き。
でも嘘で生きてきた私は嘘でしか返せないの。