満月の夜、路地裏にいる三人の男。
二人は瀕死状態で、一人はそれを足蹴にして見ている。
「……ねぇ。桐谷逢瀬(キリヤ オウセ)を知らない?」
黒いパーカーを着て、フードを深くかぶり、顔にはウサギの仮面をしている男は、身を屈めて、二人の男に顔を近付ける。
「じら"ね"ぇ」
今にも死んでしまいそうな男二人に、ウサギの仮面の男は、あっそ、と突き放す。
「……君達は薬に手を出してたからね。サツを呼んどいたよ。
じゃあ、死なないでね。」
無感情に淡々と言葉を発する彼は、男たちの記憶から一生消えない恐怖の対象のなるだろう。
「ま"っで」
それを引き留める言葉であると聞き取った彼は、背を向けて歩き始めてた歩みを止めた。
「あんだ、なに、もの"だ……?」
人間は知識に飢えている―――。
彼は背を向けたまま、一言。
「Alice(アリス)の三月兎(サンガツウサギ)。」
男たちが気を失った気配を感じ、彼は仮面を取って、空を見上げる。
素顔はこの世のものではないといっても過言じゃないくらい、端麗なものだった。
漆黒の髪に漆黒の瞳。それに一際映える、白い肌。
「うーちゃん?終わった?」
ひょっこり、と顔をだす猫の仮面の男。
「……チェシャ猫、そっちはどうなの。」
「逢瀬のことは誰も知らないって言うよ。
あ、でも、Weiss(ヴァイス)がもう少しで動きだすかもにゃー」
チェシャ猫のその一言でまた仮面をした三月兎は、チェシャ猫とともに、真夜中の路地裏へと消えていった。