「不満そうですね。」

「当然だよ。僕は薫って呼んで欲しかったのに。」


むくれる薫先輩は先輩に見えない。


「薫、ワガママ言うなー。」

「‥‥はーい。」


薫先輩はむくれながら階段を上り、何かを持って降りてきた。


「これ、台本。睦月にあげるね。」

「え、あの‥‥。」

ピンクのホチキスで閉じられた台本。
表紙には『2人の王子』というタイトルと、隠坂学園演劇部の文字。

(どうしろと。)

私が困っていると、如月先輩が助け舟を出してくれる。


「説明が足りないだろ。」

「あいたっ。」


‥‥助け舟というより、暴力だったんだけれど。


「痛いですよ‥‥。」

頭をさする薫先輩をよそに、如月先輩が教えてくれる。


「この台本は6月にある定期発表の台本だ。」

「定期発表‥‥。」

「演劇部や合唱部、吹奏楽部、ダンス部といった発表系の部活が主役のイベントでな。今年は、6月に王子様モノの劇を選んだんだ。」

「はい。」

「で。台本を選んだものの、うちの部には王子を演じられる人が1人しかいないことに気が付いた。」

(アホだ。)

私はそうつっこんだが、思うだけにとどめておいた。


「そこで!遊佐、お前にもう1人の王子をお願いしたい。」



「え?」



「今は髪が長いが、切ってメイクをすればイケメンに生まれ変わる。声もハスキーだし、いけると思う。ダブル主演と言えども主役だ。どうだ?」


「嬉しいんですけど‥‥。私、初心者なので務まるかどうかわかりません。」

「大丈夫だ、三ヶ月ある。お前は伸びる。やってみないか?」


大好きな演劇。
主役。
王子役というのが気になるが、やりがいはある。


「‥‥わかりました。宜しくお願いします。」


「おう!よろしく!」