旧校舎の中。
使われていない校舎だというのに中は綺麗だった。

(埃が舞ったりすると思ったのに。)

むしろ掃除後の教室のような…そんな感じ。


ぼんやりしながら進む如月先輩の後を追う。


(旧校舎…というより、教会みたいなホテルみたいな…。)

出入り口の真正面には大きな階段。
窓には全てステンドグラスのような色付きのガラスが施され、曇り空からの僅かな光を室内にいれている。



ダンッ…!


「っ!?」

突然足を踏み鳴らすような音がして私は立ち止まる。

薄暗く見えづらかった階段の上に、細いシルエットが見える。


そしてそのシルエットが突然叫ぶ。





「誰がなんと言おうと、君の全ては僕のものだ!」





凛としたその声に、聞き覚えがあった。
しかし。


(誰だろう。)

思い出せない。
思い出そうとすると頭の奥が痛む。

まるで思い出すのを拒んでいるかのよう。


(他人の空似かも知れないし…。)

声が似てる人なんて何人もいる。


そう言い聞かせて私はシルエットに向き直る。


「睦月!」

シルエットは階段をかけ降り…私に抱き着いた。


「睦月、会いたかった…。」

骨格は細くとも、男の子だと分かる。


「ちょ…!」

私は慌てて体を離そうと彼を押す。


離れないと思った体は案外簡単に離れていった。