恋の爆ぜる音

 晃は律儀にも椅子から立ち上がって、私にタオルを手渡した。
投げてくれていいのに、と思っていたら、借りたものをそんな風に扱えないよ、と笑って言われた。顔に出ていたらしい。

「あと少し頑張ったら、帰りにアイス買って帰ろう。俺が奢るから」
「わかった」

無意味に張り詰めていた何かが霧散して、気分が良くなった。アイス、嬉しい。晃と帰れることが、では断じてない。

お互い無言のまま作業を再開した。
汗が滲んだので何度かタオルを使った。このタオル、さっき晃が使ったんだよね。
ふとついてもいない晃の匂いがふわり、と鼻腔をくすぐったような勘違いをした。

30分ちょっと経って、晃は大きく背伸びをした。どうやら終わったようだ。

「先帰る?」
「なに言ってるの。アイスって言ったじゃん」

晃が立ち上がって、私の背後から資料を覗き込む。
いつもと同じ、何でもない距離なのに、私はずっと近くに晃がいるような気がして、心臓がばくばく鳴り始めたのを感じた。

「あとどのくらい?」
「え、あ、ここに去年と一昨年のデータ、入れるだけ」
「去年……読み上げるから書いて」

棚から分厚いファイルをひょいと取り出す腕は、どこまでも男らしく美しい筋肉がついている。
ページをめくった晃がデータを読み上げる声が響く。
低くて甘い、柔らかな声。一つ一つ、聞き漏らさないようにデータを書き込む。一昨年のぶんも同じように読み上げられて、私の仕事はあっという間に終わった。

お礼を言って、すぐに帰り支度を始める。
晃の声の残響は耳に残っているし、心臓はけたたましく鳴り続けたままだ。