急いでるから、と断れば終わる話だった。
どうせ相手は金網の向こうだ。何を言われようとそのままさっさと帰路についてしまえばいい。まさか追って来はしないだろう
けれどそれをしなかった。出来なかった。この場合の沈黙は肯定と同義だ。
「着替えてくるから、待っててよ」
その言葉にはNOと言わせない響きがあった。
「でも……植田君、部活は?」
「自主練しゅーりょー」
絞り出した精一杯の抵抗はあっさりとかわされた。
手に持ったスポーツドリンクのペットボトルを振って彼が笑う。
「……一緒に帰ろう」
一人で気楽な放課後を楽しむつもりだったのに。
躊躇う間もなく首が勝手に縦に動く。言葉の引力に、逆らえない。
急いで戻るからそこにいて、と言い置いて走り出した彼の背中を見送る。髪から落ちた雫がキラキラと陽射しを反射していた。先程まで恥ずかしくてどうしようもなかったのに、今はその光を綺麗だなと思う。

