本当はね。


「10分前に着いたじゃない、もう。」

私がそう言うと、

「私こっちだから!行くね!バイバイ!」

と美希は笑顔で廊下を走っていきました。

教室に入り、一息ついて私が席に着くと

「その木で出来たやつ…もしかして…」

声が聞こえて振り返ると、サラサラの黒髪に綺麗な二重を持つ、整った顔立ちの男の子がいました。

「えっと…何のことでしょう?」

そういう私に答えるように彼が指を差したのは、私の鞄に付いている木で出来た星のキーホルダーでした。

「このキーホルダーのことですか?」

「うん。それ、どこで手に入れたの?」

これは、幼稚園の時に仲の良かった男の子が、親の仕事の関係で引っ越す時にくれたものでした。

「昔、友達から頂いたものです。その友達が、引っ越してしまう前に。」

「やっぱり……美優?」

男の子は大きく目を見開いていました。

「え?どうして私の名前…。」

戸惑う私をよそに、男の子は満面の笑みを浮かべていました。

「俺、竹下尚(たけしたなお)!覚えてないか?俺がその星あげたじゃん、覚えてない…?」

私は彼をもう一度よく見渡しました。
尚くんは、幼稚園の頃仲が良かったというだけの関係だったのに、ずっと愛おしいと思っていた人でしたが…

「本当に尚くんなの?」

私の知っている尚くんは、女の子のように可愛らしい顔立ちで、声も高くて、喋り方も丁寧で、お人形みたいな人でした。
でも今目の前にいる彼は…

「ほら、見ろよ、お揃いのやつ俺も持ってるぜ。信じてもらえたか?」

「尚くんだ……本当に本当に尚くんだ…。」

私は驚きを隠せませんでした。
確かによく見るとパッチリと開いた目はよく似ていましたが、私の知っている尚くんとは別人のように男らしい体格をしていました。

「変わりましたね、尚くん。」

「そりゃあ、美優と最後に会った日から10年以上経ってるからな!美優だって、大人っぽくなってるよ。昔のこと、1回だって忘れたことなかったけど、今の美優もすごく綺麗だ。」

「えっ…」

突然のほめ言葉に戸惑っていると、教室に先生が入ってきた。

「さぁ、今日から本格的に学校が始まります!みなさん、まだ〜……」

私の頭の中は、さっきの尚くんの言葉でいっぱいだった。