「あ、清水くん。おはよー!」

わざとやっているのか、空気が読めないのか。
哉汰と紫音が真剣な話をしているのはクラスメイト全員が肌で感じ取っていた。その中に平然と、普通に入り込んできたこの少女。
「そういえば、朝見かけなかったなー。」「また遅刻したの?」と、哉汰の顔をのぞき込んでいる。
それに気付いているのか、いないのか。紫音は後者だろうなと哉汰を見ておもわず思う。哉汰のよき理解者紫音は、自分が言った言葉で頭がいっぱいになり周りが見えていない状態だと悟った。それは目の前にいる紫音さえも見えなくなるほど。

「ねぇ聞いてるー?」と首を傾げ、いつまでもそばにいるこの少女に、紫音、それにクラスメイト含め苦笑いを浮かべた。鈍感という言葉で終わらせていいのだろうかと本気で悩んだ瞬間だった。
ひとまず空気を読めていないこの少女に何かを言おうと紫音が口を開けた時、「警察署か!!」と叫び廊下をかけていく哉汰の姿。
なるほど。1時半までに警察署に来い。ってことか。
一人で納得していると、隣から「実はね、あのね。あーもう言いにくいなぁ。」ブツブツと、哉汰がいた場所に背を向けて何かを言っている残念な少女。

「・・・鈴木さん。」

思わず紫音は声をかけた。残念な少女、鈴木が話しかけているであろう哉汰はもういない、という意味を込めて。
勿論声に気付き振り向いた少女、鈴木琴音は哉汰がいないとわかると不思議そうな顔をして見渡し始めた。

「えー!今日七夕だから七夕祭りに誘いたかったのに!」

何から何までわかりやすい反応をありがとう。
そっと心の中で紫音は呟いた。



教室から出て行った哉汰は今、警察署へ向かう為走っていた。昨日、とある知り合いから話があるという連絡を受けた、という事しか覚えてなかった哉汰。その後に、警察署に来てくれと言われていたのを忘れていたのだ。
紫音に言われた時間帯は確か1時半までに来い。さっき教室で見た時刻は12時54分。学校から警察署までの時間は徒歩で約18分。時間帯的には1時半までに間に合うのだが、何故そんなに急いでいるのかというと、〝1時半までに来い〟と言われたから。
〝1時半までに〟ということは〝1時半〟にな
にかあるってことなんだろ?
哉汰はそう捉えた。

走って息が上がっているのをなんとか抑えながら哉汰は足をゆっくりと止めた。警察署に着いたからだ。肩で息をしているのを落ち着かせ、哉汰は警察署の中へ入って行った。

中へ入ると、相談所のスペースや受付、その奥には警察の方たちの作業スペースが目の前に見える。右を見れば関係者以外立ち入り禁止のマークがついた扉。そして左を見れば警察官達専用の行き来する扉がある。って言っても左側の扉のその情報はとある知り合い、またの名を五十嵐警部に教わったことだった。
中の構造はまったくもってわからない。
五十嵐警部はどこにいるのか、広い警察署の中を探していると、左側の扉が開く音がした。反射的に音がした方を見ると、そこには探していた五十嵐警部がいた。

「五十嵐警部!!」

「思ってたより速かったな。」

時刻は1時10分。全力疾走しただけあってかなり速くついたようだ。
五十嵐匠警部。それが五十嵐警部の名前だ。見た目はお世辞でも痩せてるとは言えないぽっちゃり体験で、身長は意外と高め。今はヒゲが少し生えている。現在55歳で、痩せれば普通にかっこいいオジサン顔の造りをしていて、哉汰は残念な目で見てしまう事もある。本人には勿論バレないように見ているつもりだ。
笑いながら五十嵐警部は哉汰に近づくと、「朝何してた?」と聞いてきたので、「寝てました。」と正直に哉汰は言い返した。

「それじゃあ私が何回も掛けた電話も気づかねぇわけだ。」

は?と思わず呟いた。哉汰は起きた時から弄っていない携帯を見れば4件の電話通知が残されていた。メールにも時間と場所の連絡がはいっており、今日に限ってなんで携帯を確認しなかったんだと後悔した。