丸林は後ろを振り返らず、歩いて校門へ向かった。校門の前には黒い車が止まっていて、運転席には父親が乗っていた。
助手席の扉を開けて乗り込む丸林を見て、父親は声をかける。
「もういいのか?」
「あぁ」
夏海はまだ屋上から下を眺め、車が去っていくのを見届けていた。
「あの子が例の子か?」
「そう、僕の人生を変えてくれた恩人。今俺がここにいるのはアイツのおかげなんだ」
「そうか」
「もう行って‼︎」
父親は車のアクセルペダルを踏み、前へ前進する。
丸林は車の窓を開け、高校の流れていく景色を眺めながら、ふとある事を思いふける。
俺の気持ちなんてこれっぽっちも気付かない、いやあのままでは一生気付けないだろう。意外にも情に厚くて、鈍感で、気の強い奴を落とすのは誰しも至難の技だろう…
不思議な目をする彼女を、誰も手をつけられない。



