『坂尻に会えてよかったよ』
別れ際に耳元へ囁かれた言葉が胸に突き刺さった。
バス停前でぼーっと立ち尽くしていると、自分が乗るバスがやって来る。
ふと横を振り向き、誰もいない道をじっと見てしまう。
追って来るはずもない人を待ってもしょうがないのに…
バスに乗り込み、2人がけの窓側の席へ座った。
丸林に対してもっと自分ができることがあったのではないか?
自分をどうしても責めてしまう。
彼の未来はどちらを選んでも茨の道かもしれない。
窓に頭をつけて、モヤモヤする気持ちが渦巻きながらもバスは進んで行った。
夏海が乗ったバスの後ろ姿を、道の脇から丸林が見送っていた。
彼は今から家に戻る。その前に一度深めに深呼吸をした。
よしと覚悟を決めて、バスに背を向け自宅へ向かった。