「なあ、さっきの弓矢なに? お前こそ何者なんだよ。絶対普通の人間じゃねーだろ」
「君にだけは言われたくないな。普通の人間は垂れ流すほど魔力を溜めたりしない。それより、口を閉じろ。舌を噛むぞ」
青年はビルの端まで辿り着くと、躊躇いなく飛び降りた。地面に激突する手前で片手を地面へ向けると、突風が巻き起こり落下の衝撃を殺すクッションになる。
「今のなに!? すげー!」
「ただの風魔法だ。それより、君の家を教えてくれ。ひとまず君を安全な場所に送り届けるのが先決だ」
「家はねーよ。つい数時間前に保護者代わりの人間に追い出されたばっかだ」
「……訳ありか。厄介な……。仕方ない、とにかく明るい場所に入るぞ」
「どっか店入んのか? あたし、金持ってねーんだけど」
一つ眼の彼らが明るい場所には寄りつかないことは茜も知っている。
だから茜にとって帰る場所の有無は死活問題なのだ。太陽が出ているうちは気にしなくていいが、問題は夜だ。
お小遣いなど貰えない立場の茜は、飲食店に長時間居座ったりホテルに泊まることができない。
夜は自室の電気をつけっぱなしにするしか、茜が安眠できる方法はないのだ。
だから、帰る家がない今、照明がある場所に入るには青年の財布をあてにするしかないのだがーー



