その瞬間、光の矢が目の前の黒い物体を貫いた。
一つ眼の敵はそのまま黒い霧のようになって雲散し、跡形も無く消えていく。
代わりに、どこからか飛んできた学ラン姿の青年が、呆然と目を見開く茜の前に降り立った。
すらりと伸びた足と、均整のとれたシルエットの体躯。肩口までのさらさらの黒髪は、男子にしては長めの髪型だが、それがむしろ似合ってしまうほど美しい顔立ちをしていた。
彼は光る弓を携えており、先ほどの矢を射たのが彼であることがわかる。
静かな知性を感じさせる切れ長の瞳が、茜を見下ろした。
「怪我はないか」
冷たさすら感じるほど落ち着き払った声色で、彼は茜に声をかけた。
だが、茜は返事ができない。声も出せずに青年を見つめたままだ。
それを見て青年は短く嘆息すると、少し哀れんだような目をした。茜の様子を、恐ろしい目に遭ったから呆然としているのだと解釈したようだ。
「……身体が無事ならいい。今起きたことは全て幻だ、忘れろ」
言いながら青年は茜に近づくと、手のひらを茜の頭にかざそうとしてーー
「見つけた!」
その手を掴んだ茜が叫んだ。
「あたしのヒーロー!」
嬉々として言い放った茜に、青年が目をむく。



