剛「代行呼ぶから大丈夫だ!俺もそんなバカじゃねぇよ?」
一也「そうですよね。わかったよ」
八千代「あ、じゃあ私も入れてこようかなぁ」
剛「やっちゃん!こういう時は我が息子の一也くんに頼るべきです!」
いやいや、母さんといたいだけだろうよ。
八千代「うーん、大丈夫?」
一也「大丈夫だよ。何がいい?」
八千代「じゃあ私もビールで!」
一也「わかったー」
剛「一也!!」
ビクッ!!
いきなり大きい声出すなよ、、、。
一也「何?」
剛「、、、中ジョッキな?」
一也「わかってるよ!!」
なんとなくお父さんのカッコつけ方がウザイ。
とゆうか下手くそです、お父さん。
結構歩く所にドリンクバーがあった。
遠いなぁ。これじゃぁ面倒だな。
僕はジョッキを取って迷わずメロンソーダを入れる。
僕の癖はこれ。
外食すると必ずメロンソーダを飲んでしまうということ。
まぁそれほど気にしてないけど。
ビールのジョッキは冷えてた方が良いだろう。
僕は冷凍庫からジョッキを2個取り出す。
ジョッキを取り出したのはいいが、、。
ビールの入れ方がいまいちわかんない。
ビール入れるところ見ようかな、、。
誰かビール入れに来ないかなぁ。
ジョッキを冷凍庫に戻した。
少し隅に寄って誰か待つことにした。
あれから5分くらい待った。
誰も来ないんだけど、、、。
諦めかけた時に1人の女性が来た。
その人は冷凍庫からジョッキを取り出す。
それさっき僕が直したジョッキ、、、。
何となく申し訳なくなった。
でも5分も置いたから冷えてるか。
その人がビールを入れ出す。
しっかり目に焼き付けよう。
まずジョッキを横にして入れる。
それから満杯になりそうになったら、ジョッキを縦にして泡を出す。
うん。いい出来だ。
今僕オヤジくさかったかな。
でも未成年の僕でも美味しく見える。
実際に飲んだら無理だけど。
なるほどね。タイミングも大事かぁ。
そう思いながら何気なくその人を見る。
髪型は黒髪。髪を横にして1つに束ねてる。
ん?何か見覚えがある、、。
え?まさか!
ふっ。ありえないから。はい。
手を見てみる。肌白かった。
あの人の顔も白かった、、、。
偶然だ偶然、、。と思った時。
こっちに気づいたのか僕を見た。
まじで?嘘でしょ?
違うかと思ったら本屋のあの人だった。
その人も驚いた顔でこっちを見る。
人の表情の一つとしては普通だけど、
その人の表情は何よりも眩しく見えた。
こんな気持ち経験したことない。
なさすぎて気持ち悪くなってきた。
神﨑「さっきの学生くんじゃん」
あ、僕のこと覚えててくれたんだ。
忘れられなかった。
まぁすぐには忘れないか。
一也「あ、また会いましたね」
神﨑「こんなことってあるんだ」
一也「あるもんなんですね」
奇跡としか言いようがない。
何か縁があるのかな。
いや、ない。偶然な奇跡だ。
今日は運が良かっただけだ。
神﨑「家族と来てるの?」
一也「よくわかりましたね」
神﨑「やっぱりそうだったかぁ」
一也「なんでですか?」
神﨑「君友達いなさそうだから」
一也「そんなことないですよ」
神﨑「今の学生で1人であんな小さい本屋に来る人とかそんなにいないよ」
確かにそうかもしれないな。
何も言い返すことがないわ。
神﨑「ていうかそこで何してるの?」
一也「へ?」
あ、、、。ビール入れに来たんだった。
これじゃあずっと見てたみたいだよなぁ。
ここは正直に言うべきか、、、?
一也「いや、、、実はビール入れに来たんすけど入れ方がよくわかんなくて」
神﨑「ああ、じゃあ私が入れようか?」
一也「あ、いやそんなつもりで言ったんじゃないんすけど」
神﨑「私が入れたいだけだから。ついでと思って、ね?」
一也「あ、じゃあお言葉に甘えて」
神﨑「はい」
僕は冷凍庫から再びジョッキを2個取り出し、彼女に渡す。
彼女に渡した時、少し手が触れた。
ビックリして落としそうになった。
幸い、彼女が持ってたから落とさずに済んだ、、、。
一也「あっぶね!!」
神﨑「ん?」
一也「あ、いや何でもないっす」
その人はビールを入れ出す。
、、、なんか話題を出すか。
一也「ビール飲むんですね」
神﨑「私ビールはまだ無理なの」
一也「え?じゃあそれは?」
神﨑「あぁそれオトッチャンの」
一也「オトッチャン?」
神﨑「お父さん」
一也「あぁなるほど、、、」
神﨑「ビール2杯飲むの?」
一也「いや、それ親のっす」
神﨑「そりゃあそうだね、ハハ」
その人は笑う。歯を見せて笑う。
その人が笑ってると僕もなんか笑っちゃう。
今僕と話してて楽しいって思ってるかな。
よし、思い切って年齢聞いてみるか。
ふぅ。深呼吸深呼吸。
一也「店員さんは何歳ですか?」
神﨑「私は22」
22歳か、、、。
僕が17歳だから、5歳も上だ。
5歳も離れてるんだ、、、。
もう少し早く生まれればよかった、、、。
神﨑「なんで?」
一也「いや、、何歳なのかなって」
神﨑「君は何歳?」
一也「僕は17っす」
神﨑「5歳も離れてるんだ、、、」
一也「え?」
神﨑「ていうか店員さんとか堅苦しいから他の呼び方にしてよ」
マジで?
名前で呼ばせてくれるんですか?
一也「でも、、何て呼べばいいですかね?」
神﨑「神﨑でいいよ」
一也「呼び捨ては呼びにくいっす」
神﨑「じゃあ、、、ことっちゃんとか」
一也「ことっちゃん?」
神﨑「あ、下の名前は琴華(ことは)」
琴華(ことは)っていうんだ、、、。
何となく清楚なこの人にはぴったりの名前だ。
一也「でもことっちゃんもちょっと」
琴華「じゃあもう好きなのでいいよ」
一也「じゃあ普通にさん付けで」
琴華「よろしく、、、ああ君の名前聞いてなかったね」
一也「僕の名前は、澤、、、」
僕は思いついた。
この人に試してみよう。
まぁ絶対当たらないけどね。
近くにペンがあればいいけど、、。
見渡すと運がいいことに紙とペンが置いてあった。
紙を1枚とペンを1本を取る。
その紙に自分の名前を漢字で書く。
それを見せてみた。
琴華「さわむら、、、」
苗字は読めるだろう。
ここからだ。
「いちや」か「かずや」か。
どちらかを言うんだろう。
本当のを言ってほしいところだけど。
ここは現実を見ないといけないから。
琴華「かずやかいちや?」
はぁ、、、。ほら見ろ、、。
って、え??
、、、マジで?
確かに「いちや」は出たけど、最初に「かずや」って言ったよな?
でも曖昧だからなぁ。
一也「どっちだと思います?」
聞いてみると、
琴華「かずや」
と即答で答えたんだ。
僕は嬉しかった。
言葉にできないくらい嬉しかった。
なんか目が暖かくなってきたのは何故?
なんか頬がくすぐったいし。
虫でも止まってるのかな?
神﨑さんを見ると心配してるような顔をしてる。
なんで?何かあったのか?
琴華「澤村くん?どうした?」
へ?何が?
顔になんかついてるのかな?と思って頬を触ったら、なんか濡れてる。
ん?濡れてる?
目が痒くなって目に手を当てると、ここも濡れてる。
頬よりも濡れてる。
もしかして僕、、、泣いてるの?
そう思ったらなんか息が苦しくなって、もっと頬が痒くなって雫が顎まで零れていくのがわかる。
恥ずかしい。男として恥ずかしい。
もうすぐ高校卒業する男が。
名前を当てられただけでこんなに泣けてくるなんて。
声が出そうでヤバかった。
一也「ビールありがとうございました、それじゃあまた」
神﨑「え?あ、、」
僕は神﨑さんの言葉に無視してジョッキを3つ持って帰った。
神﨑さんに絶対情けないと思われた。
こんな情けないところ、これ以上見られたくないから。
家族の顔が見えてくる。
お母さんがまず僕に気づいた。
お母さんと目が合ったらまた涙が出てくる。
また、息が荒くなってくる。
八千代「あんた何してたのよ!って、どうしたのよ?」
剛「遅かったなぁ!ん?なんで泣いてんだ?」
僕は涙が止まらなくなって、ジョッキをテーブルに置いて座った。
八千代「泣いてるだけじゃわかんないよ。何があったの?いじめられたの?」
剛「いじめられたんだったら俺が言ってやるよ!どこにいるんだそいつらは」
違う。違うんだよ。
でも上手く言葉に出せなくて、、、。
剛「一也、何とか言え!」
一也「、、、、、名前」
剛「名前?」
八千代「名前がどうしたの?」
一也「初めて、、かずやって当てられた」
剛「え?」
一也「僕、生まれて初めて、、かずやって最初に呼ばれたんだよぉぉぉ」
話してたらまた涙が溢れてくる。
剛「なんだ、、、そんなことで泣いてんのかぁ」
お父さんにはそんなこと言われたけど、
お母さんを見ると微笑んでいる。
八千代「そのこと気にしてたんだね、、、そうかぁ。そう思えば一也1度も名前当てられたことないんだもんね」
僕はそのお母さんの一言で十分支えになった。
八千代「よし!今日は一也コングラッチュネーションということで!剛くんいつもより頼むよ!」
剛「まじで~!?じゃあどんどん食え!今日はとことん食っちゃえ!」
八千代「一也、食べよ?あんたのマグロ、とっくに来てるんだからね?」
一也「うん」
こういう時のために、家族は必要だ。
親は僕を支えてくれる。
それが癒しになる。
そう思えば泣いた時、いつも親が元気づけてくれたなぁ。
そう思うと親には感謝しきれない。
ありがとう。ほんとにありがとう。
そして、神崎さん。
さっきので僕は確信した。
僕は初恋をした。
それも5歳上の彼女に。
今日はいろいろあったけど、
今日は最高の日だった。
今日は、「奇跡の1日」だった。