壊れる...?
そういえば、如月さんと初めて会ったときに言ってた気がする。

ダメだ、やっぱりよく分からない。


「真白、ゆっくりでいいから、話せることを話して?」


私が言うと、真白は俯いて、ぽつりぽつりと話始めた。


「ある日、きさらぎがね、言ったの。『もし俺が壊れたら、新しい主人を自分で探せ』って。...その意味が、僕にはよく分からなかった。...でも、きさらぎは夜に家から出ていく回数が増えて、それで、なんとなく察しちゃったんだ。きさらぎ、壊れちゃうのかなって」


真白の瞳が揺れる。

真白の目に、透明な膜が出来る。
でも真白は、上を向いて必死にそれが零れ落ちるのを堪えていた。


「だから...だから和咲に会ったとき、思ったんだ。この人になつけば、きさらぎが壊れるところを見なくて済むのかなって。僕は、最低だ...!」


真白は強く拳を握る。


「僕は逃げた。きさらぎが、壊れちゃうのが見たくない一心で。...僕は利用した。和咲の優しさを、自分勝手に...っ。僕、和咲がもしも帰ってこなかったら、どうしようって思って...僕が戻ったら、きさらぎ、壊れちゃうかもしれないって...」


そっか。
分かった。

真白が私に警戒心を抱かなかった理由。
如月さんが、私に真白を飼うように言った理由。


真白は警戒心を抱かなかった訳じゃない。
きっと、私に対しても、他の人と同じように警戒心を抱いていたはず。
でも、それを必死に押し殺して、私になつこうとしていたんだ。
私に、飼って貰うために。

如月さんは、きっと察していたんだ。
自分が、壊れてしまう、ということに。
私には壊れるという意味が分からないけど、きっと、そのことを察して、真白の居場所を作ってあげようとしたんだ。