「母さんの病院はな…とても難しいものだったんだ。医者にも、海外の病院で診てもらうしかないと言われた。…だが、海外に渡る金も、治療の金もなかった。銀行から借りたが、それでも足りなくて…気づいたら俺は、闇金融に手を出していたんだ」
闇金融って…それ…
言われなくてもわかる、ヤバイやつだって。
「だがな、海外に渡る前に…母さんは息を引き取ってしまった。銀行の金はなんとかなったが…闇金融はそうはいかなかった。いつの間にか利子がつけられ、借金はどんどん増えていくばかり。お前たちに迷惑をかけられないと思って、俺は家を出た」
ただひたすら、驚きだった。
物語の世界だけのものだと思っていた闇の世界に、まさか自分の父親が踏み込んでいたなんて。
「それで…今は?」
「もう、大丈夫だよ。手は切った」
この瞬間、心の底からホッとした。
「伊吹や栞には、寂しい思いをさせてしまった…。本当にすまない」
テーブルにつきそうなくらい頭を下げる父さん。
そんなこと…
「俺はもう、大丈夫だから。頭上げてよ…父さん」
それから…
「泣かないでよ」
静かに涙を流す父親に、俺も涙をうつされる。
