──これは俺が中1の時の、冬のある日。
『姉ちゃん…父さん、まだ帰ってこないの?』
母さんが病気で死んでから1ヶ月。
父さんは一度も家に帰らなかった。
その頃から、父さんは帰るのが遅かったり…ひどい時は帰ってこない日もあった。
『うん…帰ってこないね』
この時、姉さんは高3。
俺よりもずっと、この状況を理解していただろう。
手伝いに来てくれていたおばさんに、迷惑をかけないように、料理も洗濯も掃除も…全部ひとりやっていた。
俺はどうしたらいいのか分からなくて、ただただ毎日を過ごすだけだった。
ある日の晩。
『じゃあな』
父さんはひょっこり帰て来たと思うと、またすぐに出て行った。
大きな荷物を抱えて。
幼かった俺でも、父さんがもう帰って来ないことくらい理解できた。
そうか…捨てられたのか。
きっと別に女の人がいるんだ。
お荷物な俺たち。
それから、姉さんは志望していた九州の専門学校に行き
俺はこのままおばさんに預けられた。
高校生になったら、ひとりで暮らそう。
そう決めた。
父さんとはそれから何の連絡もしていない。
