ねぇねぇ。

「バウムクーヘン」ってさ?
何層にも何層にもくるくるできてるよね?

しっとり、さくっと。
ふんわり甘いバウムクーヘン。

…あ。
ダイエット中の女の子にはダメかな?

うふふ。
でもね。
そんなことはないんだよ?

だって、みんないつだって味わえるんだから。
大丈夫大丈夫。
お腹じゃないよ?
お肉にもならない。
ただ、胸が甘く甘くいっぱいになるだけだよ。
だから、安心して美味しく食べよ?

そうだなぁ。
せっかく、女の子同士で女子会だもん。
大好きなあの人を思い浮かべた恋バナにでも華を咲かせましょう。

みんなは…
何味がいい?

いろんな味があるんだよ??
「チョコ味」に「ストロベリー味」に
「ショコラ味」に「ハーブ味」に。

そーだ!
定番を忘れてたね?
「プレーン味」もあるんだよ。

最近ではね…
「紅茶味」や「ラズベリー味」、
「バニラ味」に「抹茶味」

美味しそうだよねぇ。
どれがいいかなぁ。

あ、そうだ。
みんながみんなそれぞれのバウムクーヘンを選べるまでは。
あたしのバウムクーヘンのお話をするね。

あたしが選んだバウムクーヘンは…
「はちみつ味」です。

えっとね。
あたしのバウムクーヘンはね。
甘くてふんわりとしてて包み込まれるようなそんな味なんだ。

一番外側の層はふわふわで柔らかい内側の層を守るためにしっかりとしてるの。

そう。
それは大切な人を見る度に。
話しかけてもらう度に。
キュウっと音を立てる胸の中を守るように。

なめらかにとろけるように。
生地とはちみつがとろけあうんだよ。
いつだってさくさく。
それでいてしっとり。

何度も何度もあいつに美味しく幸せにしてもらったんだ。

みんなもきっと持ってるよね。
美味しくしてくれる特別なスパイスを。

あ、選べた?
わあ、美味しそう。

さぁさぁみんなで美味しく食べよ?
恋のバウムクーヘンを。

たんとご賞味あれ!

バウムクーヘンを作るときにはね。
気をつけないといけないことがあるんだよ?

まずひとつ。
焼き上げる時間。
それはね、なにか一つにとらわれることはないの。

さくっと焼き上げる人。
じっくりと焼き上げる人。

どれか一つにとらわれちゃダメなの。
いつがぴったりの時なのかって??
それは、あたしには分からない。

貴方の心の時計が教えてくれるから。


そして、もうひとつ。
完成した形。

え?
注意しなくたって、まぁるくなったらそれが完成形??

ううん。
違うんだ。

ゆがんでたって、ちょびっと欠けちゃっててもいいんだ。

え?
四角くなっちゃったら??
うーん。
でも、その人のことを想ってだもんね。
四角くても三角だって。

なんでもいいの。
必要なのは甘く、美味しく。
女の子だけじゃ作り出せない特別なスパイスと生地だけ。

そうして、最後にもうひとつ。

それは、バウムクーヘンの味。

こればっかりは本当になんだっていいんだよ。

とおっても甘くたって。
しょっぱくったってもね??

え?
タバスコを入れちゃったら??

ふふっ。
へー気だと思うよ。
あ、もしかして貴方が思い描いてるその人は辛党なの??

照れないでって!

ふう。
あたしのバウムクーヘンのお話は終わりだよ。

え?
どこで作るのかって??
それは決まってるでしょう。

貴方の心の奥の中。

…ゆっくり、おいで。
…お菓子作りをしたくなったら。
…練習だってもちろん構わない。

バウムクーヘンを作ることに。
それは、恋をすることに。
上手も下手もないでしょう??

何度、失敗したって構わない。
作りたいだけ作ってみて?
何度、作り直したってへーきだよ。
自分の好きなだけの時間をかけて。
食べたい時に合わせて。

そっと、ドアを開けてみて。
そうだよ。
心の奥の台所。

ふんわり甘ぁい香りがしてくるよ。

…生地の僕はここで待ってるから。
君が大切なスパイスを持ってきてくれるとこを。

ここでね?
オーブンも。
ミトンも。

それに僕も。

バウムクーヘンをドキドキしながら焼き上げる君を待ってるから。

あとは、1つ。
貴方が勇気を出して隣町からスパイスを持ってきてくれたなら。

臆病になってしまわない限り。
外に飛び立つことを恐れない限り。

僕たちは貴方を待っている。
だって、僕たちは知っているから。

貴方が僕たちを美味しく素敵に焼き上げてくれることを。

美味しく出来上がったら。
届けに行こう?
可愛く袋に包んでピンク色のリボンをかけて。

たったひとつの言の葉を伝えよう。
そうしたら、あとは大丈夫だよ。
僕たちがしっかりと伝えるからね?

君だけのバウムクーヘン。

「恋味」

を。