撮影は順調に進んだ。

私は目の前に居る雄太を、シャッターの音と共に愛おしくて仕方の無い年下の男としてみていた。

自分でも不思議だった。

カシャっとゆう無機質な音と電子音の間で、自分がその世界にどんどん入り込んで行くのがわかった。

「30分休憩しよー!」

その言葉でハッとして我に返った。



「紅さん、凄いですね。別人みたいでしたよ。」

「あ、ありがとう。ちょっと化粧室行って来ます。」


スタジオから廊下に出ると、ひんやりとした空気が火照った頬を冷やしてくれた。

earthの曲を鼻歌で歌いながら、絨毯敷の廊下を化粧室に向かう。
なんだか今日はとても気分が良かった。

化粧室から出て、スタジオに戻ろうとした時に後ろから

「earth好きなんですか?」

はっとして後ろを振り返ると、そこには楽譜の束を持った椎奈の姿があった。

「モデルさん?何かいい事あったんですか?」

丁寧な言葉で話しかける椎奈は、穏やかに微笑み、ウェーブした長い髪を揺らしてまるで女神様みたいだった。

男の人なのに。

「は、はい。そこで撮影してまして。」

「あ、その服ってClumsy kiss?」

「そ、そ、そうです!あ!違う。いえ、あの、京果さんの…」

しどろもどろで言いかけた時、

「あー!ちょっとナンパしないでくれる?」

スタジオから京果がこちらにやってきた。

「椎奈くん、こちら紅ちゃん。例の雑誌のモデルさんやってもらってるの。」
「紅ちゃん、Clumsy kissのショーウィンドウを飾る謎の美女だね。よろしく。」

手を差し出した椎奈に、私は震える指先を隠しながら握手した。

(あの椎奈が、私の名前を呼んでくれた!)

舞い上がらないわけがない。
10代の頃から大好きだったバンドだ。

私は心の中では歓喜の声を上げながらも、小さなプライドで冷静を装い、椎奈と会話をした。


椎奈はここにあるレコーディングスタジオで、新しいアルバムを制作してるとゆう話だった。