ーーシャラララーンーー
ガムランボールを奏でて店の中に入ると、
「あー!ひーちゃーん!」
胸元の開いたTシャツで迎えたのは、アイドルの友衣奈だった。
「僕ナポリタン、頼んでおいてくれる?」
そう言って緋色は、私の肩を一度寄せてから囁き、カウンターの友衣奈の隣に座った。
私はほとんど座ることの無い、奥の席に座ると、強志さんが頼んでいないのにビールを持って来てくれた。
「緋色くんはモテるから大変だね。」
「まだ氷山の一角しか見てないから、なんともいえないですー。」
「あはは、氷山の一角ね。でも、その氷山の後ろも見てあげてね。意外と地味な山小屋があるかもしれないから。」
「山小屋?シンデレラ城みたいな立派なホテルの間違えじゃないんですかっ?」
「紅ちゃん上手いこと言うなー。」
「あ、ナポリタン二つください。」
強志さんは指でOKマークを出すと、カウンターの中に入って行った。
今まであまり嫉妬心を表に出す方じゃなかったのに、トゲのある言葉が自分の口から出てきて驚いた。
本当、女と云う名の氷山。
彼女達と戦う事になるんだろう。
そんな体力、私に残っているのかな。
高望みしないって言い聞かせても、気持ちがどんどん緋色だらけになっている。
手入れのされた小さな中庭を見ていると、緋色が前の椅子に座った。
「この景色は変わらないなー。ここでね歌詞考えたりしてたんだよ。」
「ふぅん。」
「おまちどうさま。」
二つのナポリタンが並ぶと私は無言で食べ始めた。
「妬いてる?」
顔が赤くなるのがわかった。
恥ずかしい。
「…妬いてない。数ある女の1人になっちゃったから。」
「紅、そういう所、我慢しなくなったね。」
「え?」
我慢しなくなった?
嘘だ。
私はいつだってクールな女で居るんだから。
「大阪の時の紅は、なんかピーンと張り詰めた弦みたいでさ。朝方の電話の後の紅は自ら弦を切った感じだった。感情が溢れて洪水みたいに。それでこの子を守らなくちゃって思ったんだよ。変だよなー。ギャップ萌えってやつ?ズルイよな、紅は。」
フォークでウィンナーだけを刺しながら、中庭を見つめて言った。
「色々心配かけるかもしれないけど、紅が1番だよ。」
グラスのビールを飲み干すと、「頼んでくる」と言ってカウンターの強志さんの所へ行った。
それを見計らったのか、 友衣奈がツカツカっとこちらへ来た。
