「カチャ」

鍵を開けると、まだ緋色のスニーカーがあり、薄暗くなった部屋にスタンドライトが付いていた。


「緋色…さん?」


緋色はベットで私の読み掛けの本を読んでいた。

「あーーー、お帰り。今朝はごめん。帰ろうと思ってたんだけど、これ見つけちゃって。」

とっくに居ないと思っていたから、凄く嬉しかった。


「それで、冷蔵庫漁った。ごめん。」

緋色はミネラルウォーターのペットボトルを振りながら笑った。

「ふふ。緋色さんは自由なんですね。」

ベッドサイドに座りながら言うと、緋色はパタンと本を閉じ、私の腰に腕を回した。

「あー、お腹空いた。紅、食べていい?」

「え?」

緋色の腕が肩まで伸びて、引き寄せられた。

薄暗い部屋に唇を重ねる音が響き、緋色の指先が服の隙間から入って来た時、

「あっ…。ら、ら、ラパーチェ行きません?」

突然の私の言葉に緋色はクスッと笑い、

「紅らしい。」

そう言ってもう一度長めのキスをした。

「うん、行こう。強志くんのパスタ食べよう。」



私、何言ってるんだ。
大好きなあの香りに包まれて、とろけそうなキスをされたのに。

私、望んでたんじゃないの?


違う。
少し怖かった。
体だけの関係になりそうで。

緋色とはそんな関係になりたくなかった。
高望みなのかもしれないけど…。



そんな緋色は、嫌な顔せず、

「シャワー借りていい?昨日の酒がまだ残ってる。飲み過ぎたなー。」

「あ、う、うん、こっち。」

バスルームを教えて、シャワーの音の中タオルを置き、煮えきらない私はそのままドア越しに声を掛けた。

「ねぇ、こんな風に過ごすヒト、一体何人いるの?」

シャワーで聞こえないように、わざと小さな声で言った。

「んー?ごめんー、聞こえないー!」
「な、なんでもない。」

私は緋色が脱いだ服をたたみ、洗面台の鏡の自分を見た。

(高望みしない。近くにいれるだけでいい。)

リビングに戻ろうとした時、バスルームのドアがガチャっと開き、濡れた手が私の腕を掴んだ。