考えすぎかな…
深夜の少し濡れた町並みが、街灯でキラキラしている。
ふと、タクシーのラジオから聞き覚えのある歌が流れてきた。
緋色の声だ。
彼の甘くて優しい声が、恋の歌をうたっている。
緋色に会いたい。
会って髪を撫でてもらいたい。
あの声で「大丈夫だよ。」って言ってほしい。
あの香りに抱かれたい。
家に着きタクシーを降り、この間緋色と一緒だった川沿いの道を歩いた。
ラパーチェに行きたいけど、泣きすぎて腫らした眼はさすがに見せられない。
コンビニでビールを買って、冷たくなった石のベンチに座り、缶を開けるとほぼ同時に携帯が振動した。
「もしもし?紅?起きてたー?今六本木なんだけど、たまには飲まない?」
電話の向こうから脳天気な未奈の声が聞こえた途端、私は声を上げて泣いてしまった。
状況のわからない未奈は、とにかくこっちに向かうから家に帰ってなさいと言い、電話を切った。
30分ほどして未奈は両手いっぱいのお酒を持って家に来た。
次から次へと空くビールの缶の中で、喋りすぎ、泣きすぎのぐちゃぐちゃの顔になりながら、未奈に愚痴った。
「でもさ、これで良かったんじゃないの?ダメ男との決別。紅、ずっと悩んでいた事でしょ?」
「うっうっ、そうなんだけど。なんか悔しくってさ。」
「これで心置きなく緋色さんにいけるじゃない!」
「ズッ。いや、むしろそれもね、柊より強者なはずだから、良いのか不安。」
「いいんだよ。当たって砕ければ。私だって凛さん、奥さん居るけど割り切ってるよ?」
「うん……って凛って結婚してるの!?」
未奈は「そこかよ!」と言って笑った。
こうやっていつも未奈は私を気遣って、笑顔を引き出してくれる。
自分だって辛い立場なのに。
「未奈、rosé rougeには手を出さないんじゃなかったの??」
「んふ。ついに時代が来たのよ。お互いがんばろうじゃないのっ。」
未奈はビールを高く掲げて言った。
よくある女同士の傷の舐め合い。
はたから見たら馬鹿らしいのかもしれないけど、これをする事で気持ちが整理される。
結論なんて求めていない。
ただ、聞いてもらうだけでいいんだ。
こうして私達の夜は終わりなく、目覚めの遅くなった太陽を迎えた頃、いつの間にかリビングで寝ていた。
案の定、起きてからの二日酔いが酷すぎたのは言うまでもない。
土曜日の太陽はとっくにお昼を過ぎていて、窓の外は秋のすっきりとした青空が広がっていた。
起きた時、化粧をしたまま寝てしまった未奈を見てほっとした。
独りで居るのが辛いから。
誰かの寝息を感じるのって落ち着く。
私はシャワーを浴びて、コーヒーを淹れ未奈を起こした。
「未奈ー、夜になっちゃうよー。」
明日も休みだし、久しぶりにダラダラするのもいいかもしれない。