ガッシャーン!
「わっ!ごめんっ!」
水滴の付いたグラスが、私の指先から逃げたのは、今日だけで三度目だ。
「紅さん、大丈夫ですか?」
待機しているソファで楓が私の顔をのぞき込みながら言った。
「…ダメみたい。ボーっとしちゃって。」
緋色の事、京果のモデルの事、この後の柊との事。
考えるなと言っても考えてしまう。
時間がいくらあっても足りない。
頭の整理と、伝える言葉の順番を考えていたらいつもの数倍早く12時を迎えた。
店の外へ出て、地下鉄の駅に向かう。
まだまだ眠らないこの街は、明るくてまるで昼間のようだ。
