一晩中エアコンが付いていたせいか、喉の渇きで目が覚めた。


ベッドルームの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、半分ほど喉に流し込み、またベッドに潜り込んだ。

  ベッドサイドの時計は10時を過ぎた所だった。
  隣の部屋からはpcを叩く音がする。
もう未奈は起きて仕事をしているのだろう。
  エキストラベッドからは詩織の小さな寝息が聞こえた。



  白いシーツを頭までかぶる。
どうしても、緋色とクレハの姿が忘れられない。

あの二人は付き合ってるのだろうか。
いや、緋色も40を超えてるのだから、結婚しててもおかしくない。

付き合いは長いのだろうか。
一緒に住んでいるのだろうか。
二人は何て呼び合ってるのだろうか。


  昔、憧れた人と、その人の隣に居る綺麗な女で頭はいっぱいだ。

そして、緋色。
あんなに軽い人だと思わなかった。


一番嫌いなタイプ。
自分の武器が分かってて、それを上手にコントロールする人。

 緋色は俳優やソロでの活動、モデル、作詞に作曲、全て成功した恵まれた人。

ズルイ、って考えてしまう。

本当に嫌いだ。

  だけど、あの香りがあまりにも心地良いので、もう一度側に行きたい。

  自分の裏腹な気持ちに、イライラしていた。




  そんな堂々巡りの考えの中で、ふと首元のネックレスを思い出した。


(柊、瞳ちゃんと大丈夫だったかな…)







指先でペンダントヘッドを確認してた時、部屋のドアが開いた。


「おはようー!そろそろランチでも行かなーい?」


  恐ろしい程ノーテンキな未奈の声で、現実に引き戻された私は、やっと重い体をベッドから起こした。






  ホテルから少し歩いた所にオープンエアのカフェがあったので、そこでランチをする事にした。


「しかし、緋色さん、かっこよかった!あれで40後半でしょ?女が黙っていないわな。」

未奈はパスタを頬張りながら言った。

「紅さん、今日はcobalt Air行かれるんですか?」

「うん、その予定。詩織ちゃんは?」

「私は……cobalt Airに行きます。」

「そっか、詩織ちゃんはearth人気のリアルタイムじゃないもんねぇ。私達、年を取ったわけよねぇ。」

  未奈はアイスコーヒーをストローで混ぜながら、眉間にシワを寄せて言った。

「いえいえ!earth知ってますよ!今でも人気ですし。ただ、cobalt Airの理玖さんに会いたいので…」

「あ、理玖くん狙いなのねー。じゃあ、私達はcobalt Airへ、未奈は克哉さんのイベントに。夜こっちが早く終わるようなら連絡するね。」

「うん、了解。さーて、私はあと少し仕事するかー!」

  私達はゆっくりランチを楽しみ、1度ホテルに戻った。



  私と詩織は準備をして、少し早めに大阪の街に出た。





「詩織ちゃんはなんでcobalt Airが好きになったの?」

「紅さんと同じで、rosé rougeからの流れですよ。」

 賑やかな心斎橋をゆっくり歩きながら、私達はcobalt Airの事を中心に、当たり障りのない会話をした。

  色々話しているのに、どこか見えていないところがあるような気がして、私はまだ詩織が苦手だった。


(早くライブ始まれ。)