六十年後のラブレター


「今日じゃなかったと?たっちゃんの出征は。」

頭のなかが真っ白になり、言葉がうまく理解できない。

唖然とする優子を見て、母は手を止め気まずそうに聞いた。

「なにも…聞いてなかったと?」

優子は母を見つめる。

「一週間くらい前、召集がかかったみたいじゃったけど。ほら、ちょうど竹志さんとのお見合い話を聞いて、あんたが家を飛び出していった日じゃ。」

真っ白だった頭のなかが、ゆっくりと色彩を帯びていく。

一週間前…。

優子が達也に初めて想いを打ち明けた日。

あの日達也は―――…。

「母さん、汽車は何時にでるん?」

「もうそろそろじゃったよ。」

爆発したような大きな音をたててドアが開き、そして閉まった。