六十年後のラブレター


「兄さんをわざわざ戦地に送るなんて…死にに行かす気なん!?」

温かい、ひりひりとした痛みが頬を走る。

「なんてこと言うと…。」

母の瞳には大粒の涙が滲み、今にも溢れ出しそうだった。

兄さんは後ろを向いたまま、小刻みに震えている。

「兄さんはうちのたった一人の兄弟じゃ!戦争なんかっ、戦争なんかっ…!」

「優子!」

乾いた音と共に、優子の顔だけが勢いよく振れた。

「じゃあ、母さんはええんか?父さんやたっちゃんの父さん、お隣の寛治さんのように戦死して、形ばかり…立派な最期でした言うて骨になった兄さんを渡されても。」

優子は続ける。

「そんな言葉いらんのじゃ!立派な最期かどうかは、兄さんが決めることじゃろう…?人間同士殺しあって、何が立派な最期じゃ!」

納得できないビンタと受け入れがたい現実に、優子は叫んだ。

そんな優子に母は必死で訴える。

「慎二は死なん!生きて帰ってくるんじゃ!生きて―――…。」

自分が叫びたくても叫べない言葉を優子が代弁しているかのように思えたのか…。

母の瞳から光が消えた。