六十年後のラブレター


「おお、優子。久々じゃなぁ。」

何事もなかったかのように明るく言った。

優子の兄、慎二は大学生で、本来ならば戦争に参加しなくてもよかった。

次期日本を担う者として、勉学に励むべし。

そういった政府の方針があったのだ。

しかし、日本が負け始め、それは一転した。

学生も戦争に参加しなければならなくなったのだ。

慎二のもとにも、その知らせは届いた。

「兄さん…戦争に、行くんか?」

心配そうに言う優子を見て、慎二は戸惑いながらも明るく言った。

「あっ…ああ、聞いたんか。行くで。」

「何をしに行くと?」

優子の問いが涙で滲む。

そんな優子の顔を見て耐えきれなくなった慎二はうつむいて言葉を失った。

「戦争に行って、敵を倒すためじゃ。」

慎二の気持ちを悟ったのか、代わりに母が答えた。

「日本は強い。絶対に生きて戻ってくる。」

下を向いたまま慎二が言う。

「日本は強い…。」

言い聞かせるように、何度も繰り返す。

そうしないと不安に押し潰されそうで怖かったのだろう。

兄の気持ちは痛いほど伝わってきたが、優子には理解できなかった。