昭和十九年、戦局は悪化し、優子たちの住む小さな町でさえ食料不足に頭を抱えるようになった。
実家が農家だというのにも関わらず、ひもじい毎日。
そんななかただ唯一の救いは、B29が真っ青な大河を傍目にゆっくりとした速度で泳ぎはすれど、温和な町を赤く染めることはなかったということだ。
子供たちを守るために学童疎開奨励が出され、多くの児童が故郷を離れ疎開してきた。
「優子!ちょっと来んさい。」
いつになく真剣な母の表情を見て、優子はすぐにただごとではないと悟った。
畳が擦れる音だけが響く。
母は仏壇の前で手を合わせ、優子に向き直って言った。
「兄さんが…出征することになったと。」
重苦しい雰囲気を破ったのは母さんだった。
それはあまりにも突然すぎて、優子には理解できなかった。
「どういう…。」
やっとの思いで重たいシャッターを上下に開いたとき、ふすまがあいて、兄が部屋へと入ってきた。
