街を歩くと、みんな笑顔で。
幸せそうに笑っている。
「よお、お嬢ちゃん!食ってかないか?」
林檎を差し出す気のいいおじさんに私は頷いて受け取り、お礼を言った。
「いーんだよ、今年は豊作なんだ!」
これも持ってけ、とバスケットにジャムを入れて渡されて、私はコクンとまた頷く。
人間というのは不思議なもので、何かされると何かを返したくなる。
それは悪意でも善意でもあって、この場合は善意の応酬。
この国のシステムと一緒。
よかったら、と私はさっき草原で取ってきた葦で編んだ鍋しきを渡す。
「お、ありがとな!娘が喜ぶよ!」
感謝されるのはやっぱり嬉しかった。
街を見渡せば、あちこちに親子や兄弟なんかの家族を見かける。
仲良しで、幸せそうな。
でも、前に教えてもらったの。
1つの家族にだいたい一人は他人が混ざってるって。
全員が、違う事もある。
それが当然で、交わるんじゃなく、完全に混ざる。
誰が本当の子供なのか。
誰が本当の母親なのか。
そんなこと、誰も気にしない。
隣の家に増えた妹を、誰も差別しない。
孤児院なんて場所は、此処にはない。
だいたい1日足らずで家族が見つかるし、長く一人でいることなんてない。
幸せな国。
悪者がいない国。
身分なんてない国。
尊敬されるべき人が上に立って、いつでも下りてくる。
王は宮殿に住むけど、そこはみんなの場所。
権力なんて、決して望まない。
林檎を食べていると、不意にいい香りが漂った。
パン屋さんがあるらしい。
私はそこに入って、食パンを2枚買った。
その店のカフェテラスで買ったばかりのパンにさっきのジャムを塗ってかぶりつく。
偶然隣に座った男の子はクロワッサンを食べていて、半分ジャムパンをあげると、男の子もクロワッサンをくれた。
…そう。
外界から遮断されたこの世界では、私は一人の女の子でいられる。
こんな醜い、権力の化身のような姿をしていても、此処では私は一人の平凡でトクベツな女の子。
その事実が泣きたいほど嬉しい。
初めて此処に来たときはあの別荘で散々駄々を捏ねたものだけど、私は優しさの虜になって、何度も街を歩いてる。
幸せな国。
なんて幸せな国。
私すら癒してくれるの。
こんなに罪深い、私ですら…


