「で、ワド、例のお話なんだけど」
「…はい」
「お前さ、どうして分かんないの?馬鹿じゃないでしょ?俺の言ってることわかるでしょ?理解できる頭あるでしょ!?」
「ごめんなさい、ご主人様を怒らせるつもりなんてなくて…」
「はぁ!?理解できてねぇの!?俺が怒るかどうかの問題じゃないだろ?お前の問題なんだよ!!」
ワドは苦し気に小さく丸まった。
__頭は守らなきゃ…頭と手足を…
しっかりと地震の備えのような格好で丸まっているワドは微かにだが小刻みに揺れていた。
いつまでたっても蹴られないのを不思議に思って、少しだけ恐る恐るワドは顔を上げる。
「ご主人、さ」
「それやめろって言ってるの…分からないかな…」
びくっと後ろを向くが時すでに遅し。
ひょいと持ち上げられてワドは恐怖を感じたのかさらに震えた。
「ご主人、様」
「それやめろって言ってんだよこのばか!!死にてぇのかよ!!」
「…」
ワドはまたおとなしくなって小さくなった。
だがそれはどちらかというと頑なになったようで、イライラとテルはワドを揺さぶる。
「いい!?お前は副船長なの!お人形じゃないの!!分かる?副船長は船長に向かってご主人様って言わないの!!何でわからないんだよこのばかが!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「違うのに、違うのにっ!」
伝えられないことにいら立って、テルは力任せに自分の手の甲を殴りつけた。
ぼきっと骨が砕ける音がして、手を置いていたテーブルが粉々になった。
「ごめんなさい、違うんです、怒らせようとか、そういうのじゃなくて…」
必死に弁解しようとするワドをテルは冷たく見据えていた。
「ごめんなさい、違う、ごめんなさい、ごめんなさい…」
際限のないごめんなさいに飲み込まれて、ワドはずっと頭を垂れていた。
「俺さ、お前にぴったりの場所知ってるんだよ」
「…」
「お前が、頭冷やせるとこ」
「…はい」
ワドが小さく丸まりながらこわごわと返事をする。
テルは残酷に微笑んだ。
「ゼロに連れて帰ってもらおっか。魔界に、さ…?」
「え…?」
「もう俺限界。お前にご主人様ご主人様言われるのヤダ」
「え、あ、ちが…」
「今すぐ荷物をまとめて出てけ。いいって言うまで帰ってくるな」
「や、待って、俺」
テルは有無を言わさずワドの部屋から出ようとした。
「待たない。じゃあまたね。例のお話ってこの事。ここ離れたら、ちょっとはまともな生活…」
「嫌…」
ガクガクと震えだしたワドにかすかにテルは警戒する。
「おい?ワド…?」
「あ、あぁ、あ…ご主人様、ご主人様ぁぁ!!」
「おい!!」
慌てて扉を閉めて、テルはワドから危険なものを遠ざけた。
何やらわけのわからない動物の死骸、ガラスの破片なんかはもう論外だ。
部屋はほとんどゴミだらけだったが、それだけに危険なものも多かった。
「やめろ…よせって!!」
「嫌、嫌、嫌…」
「分かった、分かったから!!」
何とかワドを押さえ込み、情緒不安定なままでは不安なので、そっと手首を縛った。
ブーツごと両足も動かないように縛ってやると、舌をかまないようにマウスピースをはめてやる。
うう、と呻きながらテルを見上げてきて、テルはドキッとした。
「ワド…頼むから、おとなしくしとけよ…」
そう言い残してテルはワドを残して部屋を出た。


