入学式が終わり、自分のクラスに向かう。久未とは違うクラスだった。既に数人の女子が卓也を見てヒソヒソ話をしている。中学の頃は各学年にファンクラブが出来ており最終的には3年が窓口となり抜け駆けは禁止事項となった。告白はおろかチョコを渡すのさえ窓口を通さないと怖い目に合う事もしばしばあった。そんな決まりが鬱陶しく卓也は3年になってからほとんど出席しなくなった。学校側も卓也がいない方がトラブルが起こらないという事で出席扱いにするという暗黙の了解が出来上がっていた。

『おっす、俺、ヒロキ!長谷川広樹!よろしく』

前の席から上半身を器用に捻り挨拶をしてきた。中学の頃を考えると絶対に知り合うキッカケすら無いようなタイプだった。

『よろしく。』

卓也はニコッと微笑んだ。男でもウットリするようなスマイルだった。

一通り入学手続きが終わり生徒達は両親と下校して行く。入学式に両親が来ていないのは卓也の家庭だけだった。もちろん久未の両親も来ていた。

『久未、帰るわよ』

『ごめんなさい。お母さん、今日、急用が出来ちゃって!』

『何言ってるの?この後、写真撮ったりするのよ。』

『本当にごめん。じゃあね。』

久未はボロンニャのパンを片手に急足で公園に向かう。公園の真ん中に池がある事から池ノ内公園と名前が付けられている。