それから数日が経った頃。ある２つの噂が飛び交うようになった。一つは、加奈子の彼氏を久美が奪ったという事。もう一つは、久美が加奈子に嫌がらせをしているという事。どちらとも加奈子が振りまいたデマだった。でも、それは卓也と久美を引き裂くには十分過ぎるものだった。

『よ！』

卓也が久美に声をかける。久美は目を逸らし俯いた。そしてそのまま卓也の前を通り過ぎる。

『待てよ！』

卓也は通り過ぎる久美の腕を掴んだ。立ち止まる久美。

『なんだよそれ！』

『…別になんでもないよ。』

久美が悲しげな表情を浮かべる。そこには、あの笑顔はなかった。

『チッ、噂の事なんて気にするなよ。』

『そんなんじゃ…』

『だったら何だよ。』

『卓也くんには関係ない。』

久美は腕を振りほどき廊下を走っていった。それを校舎越しに見つめる加奈子。ざま〜みろと言わんばかりに高笑いをする。

卓也は頭を掻き毟る。どうにも出来ない自分に怒りを露わにした。近寄りがたい昔のオーラが発せられる。廊下にピリッとした緊張が走った。

そして何かを決めたように目を閉じた。