卓也は静かに2人に近づいた。人の気配に気づいた2人が振り返る。次に気づいた時は地面に転がっていた。意識が朦朧とする中、フォアにまたがる卓也の背中を見つめる。

3代目エンペラー総長 西条卓也と書かれていた。

地元でエンペラーといえば知らないものはいない。チーム構成100人を超えると言われる超カリスマチームだった。その3代目を務めるのは若干15歳の中学生。その名も西条卓也だ。中学生離れした、体格。身長は軽く180センチを超える。程よくついた筋肉は、まるで一流アスリートのようだった。容姿は俳優顔負けのイケメン。シルバーに染めた短髪ヘアーがシンボルマークだ。先代との壮絶なタイマンで右目の上を深く切っている、まだ傷跡は消えそうになかった。

ホテルを後にした卓也は港に向かう。今日は大事な集会だった。まだメンバーには何も伝えていない。重大な報告をする為に全員参加の集会を開いたのだ。港に着くと100人を超えるメンバーが卓也を迎い入れる。地響きのような挨拶が港に響き渡った。野犬が雄叫びをあげ、野鳥が一斉に飛び立った。すぐさま、何台ものパトカーが港に集まってくる。

『西条!今度は何をやらかすんだ!』

パトカーのスピーカーからだ。この声は、中央署の山下だとすぐに分かる。

『何もしねえよ!黙って見てろ!』

卓也はそう言うと古いコンテナの上に登る。メンバーが待望の眼差しを向けた。卓也のカリスマ性は半端ではなかった。それは中央署の山下が一番知っていた。ずっと、エンペラーを見てきたからだ。初代、二代目と散々手を焼いてきたが、卓也が務めている三代目は群を抜いて厄介だった。メンバーが100人を越したのも卓也の代での事だ。それもたった一年の期間で。