キーンコーンカーンコーン。

終業を知らせるチャイムが鳴る。

『卓也くーん』

チャイムが鳴り終わって、ものの3分ほどで加奈子が迎えに来た。しかし、クラスに卓也の姿は無かった。卓也はチャイムが鳴り終わると同時に教室を飛び出していったと前の席のヒロキが教えてくれた。

『もう!』

加奈子はホッペを膨らませ怒った仕草を見せた。教室には『可愛い〜』という歓声が湧き上がる。

一方その頃、渦中の卓也はと言うと、案の定、ボロンニャに並んでいた。卓也が着いた時にはすでに行列が出来ていた。あと数人という所で店員が看板を取り出した。

『本日、完売です。ありがとうございました。』

『え?ちょ…』

卓也は呆然と立ち尽くす。今にも崩れ落ちそうな雰囲気だった。

『お客さま?』

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。とても心地よい響きだった。卓也が振り返るとそこには、おすすめパンを2つ持った久美が立っていた。

『あ!お前!』

卓也はおすすめパンに目が釘付けになった。

『ふふふ、甘いな〜。世の中、予約だよ予約!』

久美はパンの袋をフラフラと揺らし、クスクスと笑った。やはり子供のような無邪気な笑顔だった。

『頼む、一つ譲ってくれ!』

『んー、2つが私のルーティーンなのだ!』

『頼む!』

卓也は両手を合わせ小さく屈む。180オーバーの卓也が150センチの久美と変わらない背丈になった。

『わかったよ。』

『本当か?本当だな?』

『うん。公園で食べるけど、どうする?』

『なんでも良い、早く食べさせろ!』

卓也は早足で店を出て公園に向かう。

『ふふふ、子供みたい。』

久美はクスッと笑った。