みんな駆け出した。

死にたくない一心で。


『なつめ?行かないでいいの?』

「私は…」

「おいなつめ!早くしないと椅子取られるぞ!」

蓮太郎が戻ってきてくれた。

けれど私は、どうしても日奈子に言っておきたいことがあった。


「日奈子が、私たちに本気で恨み持ってるってわかった今…謝って済まされるわけなんてないんだけど…謝っておきたいって思って。

ごめんなさい…見て見ぬふりなんて、私たちも立派な加害者だった。ごめんなさい。」


『…全くそのとおりだよねー。

そういうの、偽善者っていうんだよ?

早く行ったら?蓮太郎が言ってるみたいに、椅子なくなるよ?』


「日奈子…俺も悪かったと思ってる。
見捨てて…本当にごめん。」


『…私本人が死ぬ前にその言葉、聞きたかった。』


「日奈子…」


『二人は嘘ついてないみたいだし、一回しか言わないからよく聞いてね?』

「何?」

『一番難しい椅子の場所は、《灯台下暗し》だよ。そこに椅子は2つあるから、それを頼りに探してみて。』

日奈子がそういった瞬間、モニターの電源は切れた。