そんな風に、その日も入っていった。

 そしていつものように各種の棚をチェックしながら店の中を巡り、海外ノベルものの所まで来た時に、店員のおすすめの本コーナーに平積みされている新刊に目が留まったのだ。

 ただし、とまったのは目だけ。私の足はまだ動いていた。

 他所を見ながら進んでいたわけで、当然と言えば当然だけど、私は他のお客さんにぶつかった。

 小説を立ち読みしている人みたいだった。

 どん、とぶつかった瞬間に、反射的に私は謝っていた。

「ごめんなさい!」

 するとちょっと驚いたらしい相手の女性は、間をあけて私を見てから微笑んだ。

「大丈夫ですから。こちらこそすみません」

 その私より年上だろう女性は、立ち読みしてるのが悪いのよね、と笑う。いえいえ!余所見して歩いた私が悪いんです!私は両手をバタバタと振ってそう言った。

 すると、別の場所からくすりと笑い声が聞こえたのだ。

 私達は同時にそちらの方を見た。

 そこにはえらくラフな格好の、赤毛の男性が立っていた。うわあ、目立つ人!それが第一印象だ。その男性は私達の問答のどの辺りが面白かったのか、二人に見られてもくすくすと笑っていた。

 私がぶつかった女性はちょっと眉を顰めてその男性を見て、それから私に会釈をして出口に向かった。私は急いでもう一度謝って、どうしようかと考えた。

 この、まだ笑ってる人をどうしようかってことだ。