(短編集)ベッドサイドストーリー・1



 ふーん、とあたしは呟いた。確かに禁止したけどさ。お風呂から上がったら、勿論そういうことになるんだって思っていた。だって連れ込んだのはあたしだし、文句など言うつもりはない。

 裸で一緒にお風呂に入ってるのにその気にならなかったってことだろうか。そうだとしたら、あたし実際はちょっと凹むんですけど・・・。自信満々に素晴らしい体だとは言えないが、それなりに色っぽい体ではあると思ってたんだけどな~・・・。

 君ではそんな気にならないと言われたような気になって、悔しさからがっくりきていたあたしの上から、佐藤と名乗った男が言葉を投げてきた。

「だけど、明日の朝はわからない」

「え?」

 音をたててドアがしまって、彼が外で体をふいているシルエットが動いていた。

 ・・・ふむ。あたしも立ち上がりながら、考える。

 今晩は、佐藤氏とは寝ない。

 一緒のベッドでただ転がるだけ。

 だけど─────────明日の朝は、わからない。

 くく、っと笑いが漏れた。

 仕事のあとに走って疲れた体、温かくて湿度の高い浴室で、全身濡れたままであたしは笑う。滅多にない面白いことが起きていて、あたしは今もしかしたら新しい人生の始まりにいるのかも、そう思えたのだ。

 知らない男とラブホ、抱くか抱かないかはまだ判らない──────


 時は2月。外は雪が降り積もる、寒い寒い季節。


 あらまあ・・・あたし今、こんなに潤ってるじゃない。

 そう思って、あたしはしばらく浴室の中で笑っていた。




・「潤いフェブラリー」終わり。