彼の中で、この時以来、ポテトにはビネガーになった。

 これは、オギの味なのだ。

 彼女の色に染まる自分が、何だか誇らしく思えたからだった。




 今日もオギは暇だったので、駅前で彼を待っている。

 風が彼女の髪を揺らし、彼女の鼻歌を飛ばしていく。長い緑色のスカートが足元でパタパタと音をたてている。

 帰ってくるのが早い日だと、彼がもうすぐ現れるはずだ。

 オギの瞳が自然に優しい色を浮かべる。

 彼女は、今晩彼が来てくれたなら、またソファーで一緒に眠れるわ、そう思って喜んでいる。

 あのソファーは、オギが作ったフライドポテトとビネガーの匂いがするのだ。彼がいつも指で食べたあと、そのソファーで彼女を抱くからだ。油の匂いと酢の匂い。それを嗅ぐと、オギの体は勝手に反応して熱くなってくる。

 そして彼を迎える準備を始めるのだ。彼女の体の色んなところが、温かく潤いだす。瞳も肌も輝きだして、睫毛が細かく震えたりする。

 風が彼女の髪をまた揺らした。

 オギは顔をあげる。

 そして、改札から出てくる彼を、見つけた。





「ビネガー」終わり。