心臓から遠い場所、そこがひんやりしてくると、彼女は、ああ、とため息を零す。

 彼が足りてないんだわ、って。ベランダにでて、空を見上げてぼんやりしたりする。

 彼女が暇な日中も、彼は社会人だから忙しいのだ。そんな距離を思って、オギはぼんやりするのだ。髪をくるくると指にまきつけて彼のことを思う。

 そうやって、退屈なのは変わらないけど明るいばかりではなくなった午後を過ごしていく。


 彼はオギを後ろから包むのが好きだ。彼女の長い髪に唇をあてて、自分の匂いと彼女の匂いを混ぜるのも好きだ。

 だから彼女の部屋にくると、彼はいつでも彼女の後ろにいる。

 大きくてガッチリとした腕で彼女を包んで、機嫌よさそうにしている。

 オギはちょっと邪魔ねえ、などと言いながら、それでも嬉しそうな顔をして色んなことをする。

 きゅうりを竹輪に突っ込んで切り、それを後ろの彼に食べさせたり。

 フライドポテトを大量に揚げて、それにたっぷりとビネガーを振り掛けたりする。

 彼は最初驚いていた。フライドポテトにビネガー?って。塩じゃなくて?ケチャップでもなくて?

 オギは笑う。私はこれが好きなの。うちのママのやり方なのよ。最初は驚くけれど、あなたも好きになるわ、きっとね。ならなくても、私はこのやり方は変えないけれど。

 彼はしぶしぶ、ビネガーがたくさん振りかけられたポテトを口に運ぶ。ツーンとした匂いと味に、一瞬眉を顰める。

 だけど、気がついたらもう一本口に運んでいた。

 そしてもう一本。