・君を探して


 あの時、君はピンクの兎の着ぐるみを着ていて、ストレートティーの小さなパックを持っていた。

 時々ストローを口に運びながら、バイトの休憩時間中、ひたすら僕に向かって喋っていた。


「まっすぐまっすぐ、どこまで~も一直線の道って、走ったことある?」


 両手をぐぐーっと前に伸ばして、目を閉じて考え込みながら言っていた。


「道の両側はずっと遠くまで田園風景だったり、迫り来るような緑の林や森だったりするの。でもとにかく道は真っ直ぐに進んでいて、前にも後ろにも誰もいないの」

 僕は君の前に座って、同じように紅茶のパックを飲みながら話を聞いていた。6時間遊園地の中で着ぐるみを着て動きまくるバイトの後で、へとへとに疲れ切っていたから、ぼーっと君が話すのを聞いていた。大体言葉が一度も止まらないから、どこで口を挟んでいいかも分からなかったのだ。

「余りにも景色が広大だと人間て心の中も頭の中も空っぽになるよね。ぽかーんと口があいて、全部のものをちゃんと見ようとして、目を細めたりするのよ。きっとそれはあれよね、いつも都会で、ごちゃごちゃと建物があるところにいるから、形がハッキリしたものが目の前にないと不安なのよね。だからわざわざ目を細めて必死に遠くのものの形を見極めようとしちゃうのよ。でもそれって、ちょっとバカみたいよね。だって」

 君は大きく目を開けて、やっと僕の方を見た。

「砂も、草も木も道も、それから空気が動くのも、全部目の前にあるのにね?」