ガラス越しにぴったりと、彼の手と私の手が重なる。
自分がしたことに驚いて私はハッと息をのむ。
冬の中を走る夜の電車で、誰もいない車両の中、私は窓ガラス一枚を挟んで、彼と向かい合わせ。
立っている彼は腰の位置で。座っている私は目線の位置で。二つの手のひらはガラスを通して重なっていた。
指先には彼の温度は感じられない。
だけど、彼に触れてないはずの指先はジンジンと、電気のようなものを感じていた。
彼も驚いた顔をしていた。
私もきっとふいをつかれた顔をしていたはずだ。
だけど、二人とも離さなかった。
ガラスに手をひっつけたままで。
ごとん、ごとん、電車は走る。
外は寒い冬の夜。
電車の中は温かく、そして誰もいない。
二人の、手が──────────
彼がパッと手を離した。そして周囲を素早く見回して、マイクを取る。
私も振り返る。目を凝らしてみる窓の外の風景は、見慣れたいつもの建物たち。
「・・・あ」
小さく声が漏れた。・・・もう、自分の駅じゃないの。
電車は終点駅に滑り込んでいく。
ああ、降りなきゃ──────────────



