(短編集)ベッドサイドストーリー・1



 ガラス越しにぴったりと、彼の手と私の手が重なる。

 自分がしたことに驚いて私はハッと息をのむ。

 冬の中を走る夜の電車で、誰もいない車両の中、私は窓ガラス一枚を挟んで、彼と向かい合わせ。

 立っている彼は腰の位置で。座っている私は目線の位置で。二つの手のひらはガラスを通して重なっていた。

 指先には彼の温度は感じられない。

 だけど、彼に触れてないはずの指先はジンジンと、電気のようなものを感じていた。

 彼も驚いた顔をしていた。

 私もきっとふいをつかれた顔をしていたはずだ。

 だけど、二人とも離さなかった。

 ガラスに手をひっつけたままで。

 ごとん、ごとん、電車は走る。

 外は寒い冬の夜。

 電車の中は温かく、そして誰もいない。

 二人の、手が──────────


 彼がパッと手を離した。そして周囲を素早く見回して、マイクを取る。

 私も振り返る。目を凝らしてみる窓の外の風景は、見慣れたいつもの建物たち。

「・・・あ」

 小さく声が漏れた。・・・もう、自分の駅じゃないの。

 電車は終点駅に滑り込んでいく。


 ああ、降りなきゃ──────────────