私は不快な表情を押し込めて、出来るだけ愛想よく接しようと頑張った。だって、まあ知らない人だし。それに邪険に扱って、仕返しでもされたらたまんない。変な人かもしれないし。

「あの───────そうですか。でもそれはあなたの感想ですよね?面白いと思う人間がいたから本になってるのでしょうし」

 彼は口元を緩やかに上げて微笑のようなものをした。

「・・・まあ、言いたいことは判るけど。でも主人公が侮辱的な殺され方をして、そのまま後の説明は特になしでエンドになる本が、君は好きなの?」

 ・・・それは嫌だな。正直にそう思って、私は手にしていた本を元に戻す。夜に読む本は、自分の心が温かくなるようなハッピーエンドや日常生活を描いたものにしようと決めている。

 寝起きや夢見がえらく違うと判ってからは、そうするようにしていた。

 でも、ちょっとこの人は邪魔、というか、うるさいよね。頑張っていたけど、さすがに声にムスっとした感じが出てしまった。

「それはどうも」

「いえいえ。・・・うーん、ダメ出ししただけだと印象が最悪だろうから、僕のお勧めを言ってから消えるよ」

「え?いや、結構で────────」

「これ」

 目の前に一冊の文庫本が差し出された。

 持ってたんだろうかってちょっと驚いて、私はその本を見下ろす。

 それはアメリカの田舎に住んでいる年配の女性の手記のようだった。表紙は一面カラー写真で、たくさんの緑の中に埋もれるようにして立っている女性が、紅葉の枝を持って振り向きかけている姿だった。

 優しい感じが、その表紙からはした。