これは平和で日常的なラブコメです。

それから、2日目もなんとか過ごし、宿泊研修は今日で最後となった。なんだかんだで色々あったけどとても充実していたと思う。これに加えて来年には修学旅行がある。俺達の仲は更に深くなるだろう。

「夕紀、なんか楽しそうじゃん。」

「そうか?まぁ、まだ出会って1週間のこいつらと仲良くなれたからかな。」

そう、まだ入学して1ヶ月しか経っていないが俺達の仲は結構良くなったと思う。

「ユッキー、藍ちゃん、ヒエラちゃん、サッキー、こっち来てー!このジェットコースター楽しそう!」

と、マリが手を振っているが…

「私はグッズを買うので夕紀さん達で行ってきてください。」

と、言って皐月さんはショップの方へ向かっていった。

最終日ということで、今日は人気のテーマパークに来ている。16時に集合し、電車、バスで学校へ帰り解散となっている。それまで自由行動だ。

マリが手を振っている場所に行くと少ない方だが行列が出来ている。待ち時間は15分と早い方だろう。

「ユッキー、楽しみだね!」

にぱっ、と笑顔を見せるマリ。そんな顔を見せられたら勘違いしてしまうじゃないか。世の中の男達が………俺もだが。

「あ、暮内君だ…相変わらずかっ……いね」

「確かに、学年男子でトップクラスだね」

……?何やら後ろが騒がしいがジェットコースターの音で聞こえなかった。

しばらくすると順番が回ってきた。

「それでは、こちらへ……」

作業員に案内されシートに座る。昨日よりもマリの顔が近くにあり少しどぎまぎしてしまう。

何故か後ろの二人からつままれた。

機体がガクッと揺れ、進み始めた。

「夕紀、チビらないように。にひっ」

「そう言うお前こそ、猿みたいに鳴く
(泣く)なよ?」

「夕紀、あとで一発ね?」

あ、顔面パンチか……痛いだろうな……

「な、なぁマリ…高すぎではないか?」

「何言ってるのヒエラちゃん。まだまだここからだよ?」

どうやらヒエラは既に怯えているようだ。

会話をしている内に頂点に着いた。そして
ほぼ90度の角度で急降下。

「キャァァァァ♪」←藍

「イヤッホー♪」←マリ

「…………(ガクガクガク)」←ヒエラ

「おぃぃ!ヒエラ!しっかりぃぃぃ」←俺

楽しいけどヒエラが心配だ、白目向いてガクガクいってるからな。

次は回転か…目が回りそうだな。

「ほぉぉぉ♪」←藍

「すごいすごーい!」←マリ

「………(ビクンッビクンッ)」←ヒエラ

「いやいやいや、流石に大丈夫じゃないなヒエラ!」←俺

ヒエラが痙攣しはじめた。相当怖いのだろう。

回転や小さく上昇、降下が続き終点に、なかなか面白かったな。
余程楽しかったのか、女子組もワイワイ言っている。一人を除いて。

「………………」

ズーンと沈んだ顔のヒエラ。大丈夫だろうか………

「ヒエラ………大丈夫か?」

「………(ピクピク)」

「ひ、ヒエラ………?」

なんかヒエラの様子がおかしい、顔が青ざめて、息が粗い………ってまさか!

「ま、まって!袋出すから!」

「うっぷ………あろあろあろあろ」

………ここにて、ヒロインからゲロインに成り下がった少女が一人、生まれました
虹色の何かが、美少女の口から俺の顔にかかっています。以上、現状報告でした。
………

「すまない!本当にすまない!」

「いや、いいって、無理に乗せた俺達も悪かったし………」

ヒエラが戻した際に、服が汚れてしまったためジャージに着替えて戻ってきた。
案の定ヒエラがすごい勢いで謝ってきた。運良くシャワールームがあったため虹色を流すことができてよかったと思う。

「ごめんねヒエラちゃん、怖かったんだよね?」

「だ、大丈夫………だ。」

すごいな、マリの表情。素であそこまでできるのはすごい。平凡な男ならころっと堕ちるんじゃないか?

「ま、とりあえずご飯にしよー!」

「そうだな。」

みんな藍の意見に賛成のようだ。皐月さんの姿が見えないが、メールをすれば来てくれるだろう。

昼食は定番のカレーにした。色々と話ながら食べていると…

「あ、すいません。買い物をしていたので遅くなりました!」

と、皐月さんが大量の人形が入った袋を持ちながら店内に入ってきた。そして、ヒエラの顔を見るなり、

「ヒエラさん、大丈夫でしたか?戻したと聞きましたが………」

「………」

「だ、大丈夫だ。うん」

皐月さん……その話。カレーを食べてるときはNGだよ。ヒエラには悪いけど…食欲が消えてきた。

「あ、夕紀もう食べないの?」

「あ、あぁ、腹があまり減ってないからな」

「じゃあ貰お!あむっ」

ここに来て幼馴染みが居てよかったと思えた瞬間だった。普通の女子だったら男子の食べかけなど食べないだろうが、藍は食べてくれた。幼馴染み万歳!

……

その後昼食を終え、色々なアトラクションを回って遊びまくった。

楽しい時間はあっという間、集合時間になり電車に乗る。

「楽しかったな…」

たった3日間だったが、とても楽しい研修だった。

「確かに、いい研修だったねぇ。」

「色々あって面白かったし」

「今日を除けば悪くない研修だったな」

「充実した3日間でしたね。」

と、みんなも満足しているようだ。ヒエラは今日を除けばと言っているが…

電車が駅に着くと、バスに乗り換え学校に帰る。クラスメイトのほとんどが疲れたのか眠っている。

相変わらず俺は班員に挟まれて座っているんだが…

「むにゃ…暮内…悪*即*斬!」

「暮内…ころs………zzz」

実はあいつら起きているんじゃないだろうか。

「それにしても、こいつも疲れたか…」

藍の前髪を撫でながら微笑み、ふと思う。今ならトラウマと向き合えるんじゃないかと…
今なら父さんや母さんに…墓参りの時に伝えよう。俺に、いい仲間ができたって。

「ん………夕紀…」

俺の名前を呼ぶ幼馴染みの顔を眺めながら、到着を待った。

………

学校に着くと、振休・GWの注意などがあり、理事長の挨拶が終わると、解散となった。

「さーて、帰るかな。」

「そうだな、ほらお前らも帰るぞ?」

動こうとしないマリ達に声をかける。どうしたのだろうか………

「うん…」

「ん……」

「ふふ、私はこちらなのでお先に………」

先に帰る皐月さんに手を振って、マリ達に近づく。

「帰らないのか?」

「………くない」

「え?」

「帰りたくない!」

帰りたくない………って、おいおい………
はっ………もしかして、両親から虐待を受けているのでは………?

「楽しかったから、ユッキーやみんなと過ごした三日間が楽しかったから帰りたくない!」

違った………でも、楽しかったから帰りたくない、か。そう言われると…少し…寂しく

「もー、何暗い顔してんの?みんな…明日からGWだし泊まりにくればいいじゃん」

「あ………」

そうか、振休もあるから1日早くGWに入るのか。それなら泊まりに来ても大丈夫だな。

「本当!?」

「まぁ、胡桃さんなら許してくれるだろ」

むしろカムカムって感じじゃないかな、あの人のことだから。

「じゃ、じゃあ明後日に。」

「うん、明後日ね。ヒエラも来る?」

「すまない、誘いは嬉しいが実家に帰るからな……気持ちだけ受けとるよ。」

心底申し訳ない、というような顔をしている。まぁ、実家に帰るからなしょうがないか。

「じゃ、帰るか」

「うん!」

「お姉ちゃんにメールしとこ………」

「ふぁぁ………」

こうして、長いようで短かった俺達の宿泊研修は終わっていった。

………

家にて

「あ、二人ともお帰りなさい!」

「ただいま、お姉ちゃん。」

「ただいまです。」

家に着くと胡桃さんのお出迎えが。やっぱり家にいると落ち着くな。

「さ、ごちそう作ったからたくさん食べてね!」

「「はーい」」


藍が先にメールをしてくれていたおかげかあっさり泊まりの許可が降りた。

「いやぁ、よかったよか………」

いや、よくない………んじゃないのか?俺がいていいのだろうか………

「まぁ、同じ部屋に泊まったし。いいか。」

どうにかなるだろう。どうせ、明日も明後日も、遠い未来でも平和だから。
それでいいと思う。
それが俺の日常だから。