これは平和で日常的なラブコメです。

俺は……臆病者だな。未だにトラウマからも抜け出せず、現実からも目を反らそうとした。現実と向き合う勇気が欲しい。ただそう願っている。

「おー?確かお前は隣のクラスの暮内じゃないか。」

コンビニのベンチに座っていると一人の青年がやってきた。癖っ毛なのかツンツンヘアーが似合っている。

「俺は池島徹平、よろしくな」

ニカッと笑う池島に俺はすべてを話した。「お前も大変だな……」

なぜだろう、池島に話をしていると胸の中が軽くなってきた。

「このまま変態のレッテルを貼られて生きていくのかな、俺は……」

それを聞いた池島は少し考える素振りを見せ、

「んー、勘違いだって伝えたのか?」

「いや、きちんと伝えきれてない……」

答えを返すと、池島は呆れつつも

「じゃあちゃんと伝えないとな。伝えなきゃ一生そのままだ。」と言ってくれた。

その通りだと思う、だけど……

「なぁ、暮内……ゲーム好きか?」

「……?まぁ……」

急に話が変わり、驚くがうなずく。

「じゃあよ、どんなやつが勝つと思う?」

そんなの、決まっているじゃないか。

「強いやつが勝つに決まってるだろ?」

なんでそんなことを聞くのだろうか。普通じゃないのか?と思う。

池島はニヤリと笑いながら言う。

「半分正解だな、答え合わせだ。プレイした奴が勝つ。これが本当の答えだ。」

「プレイした奴が勝つ?それって当たり前じゃ……」

「あぁ、当たり前だな。でもよ、プレイしてないやつはずっと勝てない。プレイしていれば必ず、いつかは勝てるだろ?」

「あ…………」

そうか、このまま伝えなければ伝わらない。でも、勇気を出して言えば…もしかしたら……

そんな俺の様子を見て満足したのか、池島は手を振りながら帰っていった。

「このままじゃ……ダメだよな。」

そう呟くと、俺はホテルに向かって走り始めた。

…………

さて、着いたはいいが……

「どう入るかな……」

ただいまぁ!……違うな。

悪かった!……違う……どうすれば……

「あら、スケベさんじゃないですか。」

「げ……皐月……さん……」

よりによって……こんなとこで……

「あ、えーと……」

「んふ♡」

瞬間、目の前が真っ暗になった。薄れゆく意識のなか微かにスタンガンの様なものが見えた……


「…………ふふ」

「さ、皐月ちゃんが……」

「すごいな……」

「まぁ、しょうがないよね」



ん、だんだん意識が……

目が覚めると部屋に戻っていた。夢だったのか?いや、違う……なぜか上半身だけ裸にされ、手は縛られ、口も塞がれている。

「あらあら~?お目覚めですか。」

「む、むぐむぐ!(さ、皐月さん!)」

……なんで皐月さん、鞭を持ってるんだろう。

それに、みんなは……?

周りを見渡すとテーブルに二人の姿が、だがマリが見当たらない。よく見渡すとベッドが盛り上がっている。あの中か……

ピシンッ

「むー!!」

「誰がよそ見をしていいと?」

皐月さんに鞭で打たれた……
痛さでのたうち回る。

ピシンッ

「むぐー!!」

「あはぁ、いい声で鳴きますね。」

皐月さんのキャラがブレていく……略してブレイク……って言ってる場合じゃない…!

「むぐむぐ!(早く解いてください!)」

ピシンッ

「んぐー!!」

「勝手に喋らないで欲しいですね。変態さん?」

伝わらない……伝わらないならば……!

「…………(倒れたフリをするか)」

ピシンッ

ダメだった……皐月さんが怖い。それにしても……なんで他のやつは止めてくれないんだ……?

「さて、お仕置きはここまでにして………夕紀さん、先生から聞きましたよ?夕紀さんは何も悪くないと…」

「むっむむむっむ!(だったらなんでお仕置きを!?)」

「なんでって、早めに混浴が嫌だって伝えてもらえれば良かったものを…
勝手に逃げ出した挙げ句、下半身をマリさんに見せて気絶させる。という行動を起こしたからです。」

「むむむむむむーむむむ(あれは不可抗力で…)」

ピシンッ

「分かってます」

だったら何で鞭を打つんですか!と、いいたかったが更に打たれそうなのでやめておいた。

「さて、謝罪の言葉が聞きたいですね。剥がしてあげますからちゃんと誠意を見せてください。」

そう言って、口に貼ってあるガムテープを思いっきり剥がされた。

「いってぇぇぇぇ!!」

「なにか文句がありますか?」

鞭を構えながらこちらを見下す皐月さん。

「いいえ、ありません。」

完璧ドSだ……耐えられる気がしない。遅いとまた鞭を打たれそうなので早めに謝罪をする。

「みんな…勝手に逃げ出してごめん!その結果みんなに勘違いさせてしまって……本当にごめん!!」

思いっきり頭を下げる…

トランプをしながら笑っていた藍とヒエラの笑いが止まる。皐月さんも、じっと俺を見ているのだろう…

それから何秒経っただろうか、10秒か、それとも1分か、時の流れが遅く感じる。
そして…

「ま、真面目に謝ってるから許してもいいんじゃない?」

藍がそう言ってくれた。それを機にヒエラも

「確かに、反省しているようだしな」と、そして、

「仕方ないですね、まぁ、お仕置きをして楽しかったですし…許します。」と皐月さん。

あとは……マリだけ。……直接謝るか。

「な、なぁ……マリ……」

「………………」

帰ってきたのは無言だが聞こうとする意志があるようだ。何となく分かる。

「変な勘違いをさせて、ごめんな。変な光景に見えたかもしれないけど、本当になにもしてないんだ。悪い……あと、動揺していて下半身を隠すのを忘れていた。ごめんな。」

伝わってくれたかな……俺の謝罪。

むくっと毛布が盛り上がる。顔をこちらに見せてくれないが、

「ユッキーがそこまでいうなら仕方ないね」と、声だけでわかった。きっと泣いていたのだろう。からからになっているが少し笑みを含んだ声だった。

「みんな、本当にごめんな、喉……渇いただろ?何か買ってくるよ」

「夕紀、買収に出たかぁ。あ、ダイエットコーラで」

「私は緑茶で頼む」

「私は紅茶で」

別に買収に出た訳じゃないけど……せめて罪を償わせて欲しいからな。

「ユッキー、私もいく。」

「え?いや、買ってくるから……」

「私も行くって言ってるの!」

「あ、あぁ、分かった。」

一番の被害者のマリ、本人が一緒に行くと言っているから行くしかないか。

………

「よし、三人分買ったから…マリ、何飲む?」

「えと…ミルクティーでいい?」

「あぁ、いいぞ?」

自販機に小銭を入れ、ボタンを押す。
そして、取りだしマリへ渡す。

「ほい、ミルクティーだ。」

「あ、ありがと……ちょ、ちょっとそこで座って話そ?」

「………?分かった。」

俺も喉が渇いたし、何か買ってから話すか。

………

「あはは、ユッキーそんなことがあったんだ。」

「それで藍が暴れて大変だったんだ。」

座ってから気まずいムードが漂っていたが、マリから昔の話が聞きたいと言われたので話をしていた。なんとかマリに元気になってもらって良かったと思う。

「それじゃあ戻ろっか。」

「そうだな、待たせるのもあれだし。」

そう言って、みんなの待つ部屋へ向かった。